しらゆきひめ

(※帝光時代)



君がいるから、世界の半分はいつも美しいね。


「みはな」
征くんが私の名前を呼んだ。
今日も来てくれたんだね。
「まだ、眠っているのか」
私の手に征くんの手が触れ、その温かさを、私ははっきり感じ取ることが出来る。
「聞こえているんだろう」
もう片方の征くんの手が、今度は私の頬に触れた。擽ったい。
耳の奥に響いてくる低い声も、心地好く私の鼓膜を揺らす。
ねえ、もっと話していて。
そう思った矢先、
「そろそろ、起きないか」
不意に征くんの声が震えた。初めて聞く泣きそうな声―――泣いてるの?
「もう、三ヶ月だ。いや、四ヶ月になる。もうずっと、一年にもそれ以上にも感じるよ」
まだ、起きないのか、と。
ごめんね、泣かせちゃったんだね。
「オレを、独りにしないでくれ」
大丈夫だよ、征くんは独りじゃない。私、ここにいるもの。
なんてね。
独りになりたくないのは、私の方。起きちゃったら、もう会いに来てくれなくなるでしょう。
ごめんね。私、ひどいよね。
征くんのこと、泣かせても会いに来てほしいの。
征くんのいない世界は、暗くて悲しいから見たくないの。
征くんのいる世界しか、欲しくないの。
「起きてくれ、みはな」
「起きるんだ」
「起きろ。命令だ、みはな」

ごめんね、ごめんね。まだ傍にいてほしいの。美しい世界を、終わらせないで。
「君のいない世界は、もう沢山だ」
私もだよ。だから、この瞬間だけは、私のものでいて、征くん。
「このまま目覚めないなんて、許さない。みはなの全ては、オレのものなのに」
もし目覚めたときにもう一度それを言ってくれるなら、そう約束してくれるなら、起きてもいいよ。
「みはな…!泣いているのか?」
泣いてなんかないよ。
征くんが、私の目元を拭った。
泣いてるのは、征くんでしょ?
「どうして君が泣く。こんなにきれいな涙を流して。泣きたいのは、オレの方なのに」
泣いていいよ。
「どうせ泣くなら、声をあげてくれ」
私は泣いてないってば。
「ごめん…ごめん…」
どうしたの征くん。どうして謝るの?
今日は泣いたり謝ったり、らしくないよ。
「本当は、知ってるんだ。みはな、君はこの世界が嫌いなんだろう。冷たくて暗くて、君を傷付けるばかりのこの世界に嫌気が差して眠ってしまったんだろう」
…知ってたんだね。
そう、私は征くんしか要らなくて、征くん以外を遮断したくて、私はあの日のあのときから眠った。

征くんは、ゆっくりと語り始める。

誰もオレを責めないんだ。
みはなが目を覚まさないのは、オレの所為なのに。オレが、みはなを守れなかったからなのに。
バスケ部の奴が言ったんだ、オレがオレを責めることは無意味だと。
そんな暇があるなら、覚悟を決めろと言われてしまったんだ。
みはなも知っているだろう、テツヤのことは。あいつにはこういうときは敵わないな、全く。
漸く、その通りだと気付いたよ。
恐らく、みはなもオレを責めてはくれないんだろう。
決めたよ、覚悟を。

「オレが、守るから。今度は必ず。約束する。だから、」
オレと一緒に、この世界を生きてくれないか。
空耳でなければ、征くんは確かにそう言った。私は、ゆっくりと目を開けていく。
本当にそう約束してくれるなら、信じるよ。
だから、
「…キス、して」
「っ、みはな…!」
光が差した私の視界いっぱいに征くんの顔。宝石みたいな瞳が、私はどうしようもなくすきだった。
「征、くん、征くん…私、」
征くんがいないと生きていけなの。
「わかってる」
握られていた手に力が込められた。
「ずっと一緒にいてほしいの」
「わかってる」
「もう一度言って」
私は、征くんのものだって。
「…みはな、君は、ずっと前からオレのものだ。一緒に、生きていこう」

うん。
この世界を、生きるよ。
君と。



(♪しらゆきひめ/arthur)

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