報われないと思っていた


どんなにすきでも、意味がないことってあると思う。
どんなに愛情をもったって、報われないことってあると思う。


「そんなことないと思いますよ」
目の前の彼は、バニラシェイクを啜りながらさらりと言った。
嘘つけ。全然報われてないんですけど。全くそんな兆しないんですけど。
中学のときからすきで、高校までついてきたっていうのに。
そんなこと言うなら、今すぐこの感情に意味を持たせてよ。
黒子くんにしか、出来ないんだよ。
と言ってしまいたかった。
言えない。ああ、なんてチキンな私。
「諦めない限り、可能性はなくなりません」
それはバスケの話でしょ。
私は摘んだポテトを自分の口元に運びかけて、黒子くんの薄い唇に押し付けて突っ込んだ。
もぐもぐと咀嚼しながら、彼はしっかりと眉を顰めてなにするんですかと私を睨んだ。
「今はバスケの話じゃないの」
「違いますけど。でも同じようなものです。僕は決して諦めない」
え。
私は新たに摘み上げたポテトを、今度はテーブルに落とした。
「黒子くん、す、すきな子いるの?」
反射で尋ねてしまった。あっちょっと待って答え聞きたくない!
「いますよ」
あー!! 私は心中で頭を抱え叫んだ。
試合終了。
「そ、そうだったんだ…」
私は漸くそれだけ絞り出すと、テーブルに肘をついてがっくり肩を落とした。行儀悪いですよ、とかそんなの今はいいから。
「(やっぱ桃ちゃんなの?)」
彼女の黒子くんに対するアタックは凄まじかった。
片や私は秘めに秘めて中学時代を過ごしてきた。誰にも知られないようにしながら、訊かれても『すきな人なんていない』と答え続けることでこのポジションを守ってきたのだ。
「(やっぱ桃ちゃんだよなぁ…)」
黒子くんは彼女のアタックをのらりくらりと躱していたけど、あんな美人に押されて靡かぬ男なぞいるものか。
しまった、溜め息に釣られて涙出そう。
なにが諦めなければ報われる、だ。本人が言った端から希望を断ってくれちゃって。

「でも、さすがに困ってるんですよね」
え、なにこの私が黒子くんの相談に乗る感じ。そういう流れだっけ。うーぷす。なんという状況。
というか、元は私が相談していたはず。なんか上手いこと誘導された?
「全然気付いてもらえないんです」
「影薄いからじゃないの」
私は油で汚れていない方の手で烏龍茶を持ち上げて一口啜った。嫌な言い方しちゃった。
「そういうことではありません。第一、彼女はいつも誰より先に僕を見付けてくれます」
黒子くんは口を尖らせた。ちくしょう可愛いな。その表情も、桃ちゃんの為のものなんだ。
確かに彼女は黒子くんを見付けるのは他の人より早かった。
「(私だっていつも黒子くんのこと見てたのに)」
私だって、彼を見失ったりしなかった。耳はいつでも彼の声を探した。
なのに。
「(全部意味なんてなかったんだ)」
黒子くんに悟られぬように奥歯を咬み縛った。
「すきだし、諦めるつもりもありません。でも、すきだってことに一向に気付いてもらえないんです」
正直もう聞きたくない。何度も何度も。
今すぐ桃ちゃん呼んでやろうか。
「中学のときから一緒にいるのに、なんでこんなに鈍いんですかね」
「知らないよ」
桃ちゃんの女の勘って肝心なときに役に立たないんだな。苛立ちの矛先が桃ちゃんに向き始める。
「自分のことなのにですか? 高校も同じ誠凜だって解ったとき、すごく嬉しかったのに」
「それはこっちの台詞だよ。黒子くんと同じ学校行きたくてさぁ。勇気振り絞って聞き出して勉強してさぁ。受かったときどれだけ泣いたと思っ…て…は?」
途中で話おかしくなってない? 私、今なに言った?
「っ、っ、っぎゃー!!!」
絶叫しかけて、なんとか私は自分の口を押さえた。
黒子くんぽかんとしてるし!
「なんっ、なんでも、ない!! 今の忘れて」
「嫌です」
「私もやだよ!桃ちゃんには勝てないし、そんなの解ってるから、」
もう笑うなら笑ってほしい。
「桃井さん?」
「…黒子くんのすきな子って、桃ちゃんなんでしょ」
涙目だが、いっそ彼のことを睨んでやる。
「気付かなかった僕も僕ですが、まぁ鈍いのはお互い様ですね。どちらかというとみはなちゃんの方が上のようですが」
「は?」
「僕、みはなちゃんのことがすきなんです。ずっと」


漸く報われましたね。

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