過去拍手文

修羅場

オリキャラの隊長中心
血表現有り




前方の敵の手首を斬り落とし、悲鳴を上げるその顎を下から柄頭で殴りつけた。

「このチビがぁ!!」

仰向けに倒れていく浪人の横から獣のように吼えながら次の相手が斬り掛かってきた。体を捻りその刀身を摺り上げようとした時、目の端で昨日まで同じ釜の飯を食ってきた仲間が脳天から血を噴かせながら窓を越え落ちていく様を捉える。

――やられたか

歯ぎしりをし、相手を睨むと上段から袈裟に斬る。間を空けず床を蹴り仲間を斬ったと思われる浪人の左に回って突きを繰り出した。隊士をやったことで油断をしていたのだろう。その浪人の男は吃驚したように目を大きく見開いて己の脇腹に刀を突き立てている小柄な青年を見下ろしていた。

「永倉!無事か?!」

刀を抜き、男を蹴り倒していると藤堂が駆け寄ってきた。永倉は肩で息をしながらバンダナ頭の男を見る。

「…二人はやられた」
「マジかよ…終は大丈夫かな」

斉藤は他三名の隊士と共に激しい剣戟の音がする一階にいた。ここ二階は永倉、藤堂、他三名の隊士…だったのだが、すでに二名斬られている。

「木山は?」

永倉がそう問うと藤堂は眉尻を下げ静かに首を横に振った。彼も部下を庇う余裕などなかったようだ――こればかりは仕方ないと割り切るしかない。

そうなると二階はもう二人だけなのか、

「上行ったよ!!」

階下から斉藤の叫び声と階段を踏みならす音が聞こえてきた。廊下に面する襖に向かって二人が刀を構えたその時、隣の部屋に繋がる襖が蹴破られ五、六人の浪士が斬り掛かってくる。

「…どこかに巨大な四次元ポケットでもあんじゃねぇの?」

打ち止まる事なく湧き出てくる敵に有り得ないことまで口走ってしまう。

「副長達が来るまで辛抱だ」

背中を合わせる藤堂の言葉に頷き、片手青眼に構えて右足を前に出した。




――ある日、幕府から近々各地の要人を集め会議を開くから早々に過激派攘夷浪士を一掃しろという命が下された。その為に真選組はここ最近討ち入りが多く負傷者が多数出ており人手不足に陥っていた。

そんな中、山崎がある情報を仕入れてきた。

――本日午後七時よりある旅籠で過激派攘夷浪士『金剛党』の会合がある。

だが、土方はそれを敵の罠だと考える。『金剛党』に属する浪士は人数が無駄に多いことで有名だ。しかしその会合には僅か十数名しか来ないというではないか。

――引っかかってやろう

土方が言った。

『金剛党』の拠点がある場所は抑えてある。数名は会合が行われるという旅籠へ行かせ、その間に人数が減った拠点を叩くというわけだ。
幕府から直接命が下されているのだ、失敗はできない。確実に成功する方法を土方はとった。

その罠に引っかかる役目を永倉、斉藤、藤堂、他六名の隊士に任せる。少人数で行かせて罠に引っかかったと相手に思わせる策だ。拠点に行く土方と一番隊、十番隊は制圧した後、旅籠へ応援に向かう。





上の階で敵の援軍が来たようだ。一度静まった足音がまた激しくなり刀が交じり合う金属音が聞こえてくる。

「斉藤隊長!!副長達はまだですか?!もう」
「援軍の数も少なくなってきてる!持ち堪えろ!!」

悲鳴混じりで叫んできた隊士に向かって一喝する。援軍の数は多くはなっていないが、正直少なくもなっていない。しかしここで士気を下げるわけにはいかなかった。

片足滑らせ前方の敵を逆袈裟に斬り、腰を捻って左からきた剣尖を打ち払うとそのまま横鬢をしたたかに打つ。瞬時に向きを変えて右にいる敵の胴を薙ぎ払い、背後に回ってきた敵の方を振り返った。

『斉藤の背には目が付いている』井上から冗談混じりでよく言われる言葉だ。

まさか振り返るとは思わなかったのか、八相に構えていた敵が一瞬たじろぎ動きが止まった。相手を仕留めるにはその一瞬で十分、斉藤は空いた胴を横一文字に深々と斬りつけた。

「ぐわぁぁ!!」

敵の叫び声と同時に仲間の叫び声も聞こえてきた。素早く振り返ると隊士の一人が鮮血を散らせながら階段を転げ落ちており、その先には別の敵が刀を構えていた。

考えるより先に体が動いた。階段の下へ駆け出し、その敵の首を斬り落とす。そして落ちてきた隊士を受け止めた。
敵の首が目を見開いたままゴロリと転がる。その目線の先で斉藤がしゃがみ隊士を抱えその名を呼んでいた。

「…っ」

隊士の微かな呻き声を聞いて斉藤はまだ生きていると安堵した――が、それも束の間、その隊士を斬ったと思われる敵が階段の上から飛び、斉藤の頭上目掛けて白刃を振り下ろしてきた。

――ギィィィーン!!!

建物内に響き渡る程の金属音が鳴り、交じり合った刀身から刃こぼれの青い稲妻が走る。

まずい、と思った。
競り合い中、別の敵からの攻撃は防ぎようがない。柄を握る両手の力を強め押し返そうとするが、相手は階段の上から己の全体重を掛けて押している。徐々に押され自分と相手の白刃が迫り、別の敵がこちらへ駆けてくる気配も感じた。

「終!!」

突如刀に掛かる圧力が無くなった。斉藤は相手の刀を飛ばしその向こうにあった敵の顔面を横一直線に剣尖で斬り開く。顔面とその背中からも血飛沫が舞い、断末魔の絶叫を上げながら真横を転げ落ちた。
斉藤はすぐ立ち上がり、こちらへ駆けてきた敵の胸目掛けて石火の如く鋭い突きを繰り出す。肩を揺らしながら崩れていく敵を見、そして階段の方を見上げた。

「助かったよ、凹助」

無言でヘラッと笑う藤堂の顔が疲労困憊していた。彼は手をひらひらと振って階段を駆け上がる。

「…直に来るよ」

バンダナ頭の青年の背を見つめながら斉藤はそう呟いた。




目の前で仲間や大切な人が殺された事は過去に何回かある。これから先、何十回見る事があったとしても自分は慣れる事はないだろう。

「凹助!まだいけるか?」
「おぉ!後五十はいける」

何度目かの永倉との掛け合い。傍で修羅場を共にする小さな体がとても心強かった。

藤堂は襲いかかる刀身を弾いて袈裟に斬り、横合いから飛び出してきた敵を蹴り倒し、背後に居た敵の面に肘打ちをかます。刀以外にも使えるもの全て使った。柔術も使い、周りの家具だって投げつける。

――急に敵が減ったような気がした。常時五、六人来ていた援軍もまばらに一人二人来るだけ。

もしかしたら副長達が出所を抑えてくれたかもしれない、藤堂がそう思った、その時――、

「!!」

ふと目に飛び込んできた友人の姿に驚愕した。倒れている敵が上体を少し起こし、刀を永倉の腹に突き刺している。背中から飛び出した剣尖からは血が銀の上を流れポタリポタリと畳の上に赤い染みを作っていった。

「永倉ァァ!!!」

刀を抜きニヤリと笑った敵はそれが最期の力だったのか、大量の血を吐きつつ倒れた永倉を見届けると力尽きた。
藤堂は夢中で駆け寄りさらに追い打ちを掛けようとしていた敵を斬り倒し永倉の元にしゃがむ。

「永倉!永倉っ!!こら!!チビ!!起きろ!!でないとその身の丈後五センチ縮めるぞ!!」
「オイ…」

うっすらと目が開きホッと胸を撫でおろす。
しかし危機はまだ回避できてはいない。周りを見回すとまだ見える範囲内だけでも五人程いた。藤堂は柄を握って立ち上がり青眼に構えた。


「一番隊行け!!」


耳に入ってきた言葉に目が見開き、声がした方を見遣る。亜麻色の髪をした少年が刀を前に突き出しその両側を数人の隊士達が駆け出していた。

その隊士達が刀を下ろした藤堂の両側を通り過ぎる中、一番隊隊長沖田が歩み寄り足元で倒れている永倉を見て少し吃驚したように目を丸くした。

「……何だチビ。おめぇに怪我を負わせる事ができる奴なんてェ…どんだけ小さな小人にやられたんでィ」
「凹助…次の相手はアイツだ」

薄目を開けた永倉が青筋を浮かべ呟いた。そこへ土方がやってきて「コラ」と亜麻色の頭を小突く。

「すまん。遅くなったな」
「拠点は二カ所あったことが判明するわ敵が次々と自爆するわ土方は弱いわ大変だったんだぜィ」
「あぁ?!」

見ると沖田も土方も煤だらけで隊服もボロボロだ。所々切り傷があり拠点の方も修羅場だった事が窺える。

「…片方の拠点が此処と繋がっていた。十番隊ももう来る頃だろう」

するとちょうど階下で「お前等!此処でも派手にやろうぜ!!」と叫ぶ十番隊隊長原田の声がした。

「ご苦労だったな。もう休んでて良いぞ」

土方はそう言うとバンダナ頭を軽く叩き「山崎ー!!」と、声を張り上げた。沖田は抜き身片手に部下の元へ走る。

ここでようやく藤堂の全身から緊張がゆるんでいった。土方に呼ばれ駆け寄って来た山崎が倒れている永倉の元でしゃがみ怪我の具合を見ている。

形勢は一気に逆転し、援軍が来た真選組はあっという間にこの旅籠も制圧した。



――そして後日、巨大組織を潰滅させた褒美として幕府から出陣した真選組隊士達と殉職した隊士の家族に金一封が配られた。





すみません。調子に乗りすぎました。

好きだと聞いた事がある三人の隊長さんを中心にしまして、池田屋のような感じの修羅場をやってみました。

順位的には、1.永倉 2.藤堂 3.斉藤でしょうかね。
よく出てきますしね、有り難い事です。もっと可愛がってやって下さい(*´`)♪

ちなみに私は時によりコロッコロ変わります。皆大好きですが、これを打っている時は源さんがブームです。名前だけ出たよ…



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