過去拍手文

土方先生が斬り方について話があるそうです

「真剣を敵に向かって振るう時は切尖で斬ろうと思うな。鍔で頭をかち割るぐらいの勢いで踏み込め。それでようやく切尖が敵に当たる」


巻き藁を前にして土方は抜身を片手に新人隊士達を指導していた。
遠くの方から風を切る音と共に「フン!フン!」という声が聞こえてくる。


「…だが、それだけでは敵に小さな傷しか付ける事はできない。中途半端に沢山傷を付けるだけだと追い詰められた敵に死に物狂いの反撃を食らう事になるぞ。まさしく窮鼠猫を噛む、だな」


「フン!フン!」


「……敵を斬る際、腕の力だけで斬ろうとすれば刃が骨で止まり刀身が曲がるだけになる。試しに腕の力だけでこの巻き藁を斬ってみろ。中の青竹で止まる」

土方はそう言うと目の前に居た隊士に抜身を差し出す。新人隊士は立ち上がり恐る恐るそれを受け取った。

「斉藤」
「はい」

土方は刀が手元から離れると傍に居た斉藤を見る。

「少し見てやってくれるか?」
「?…分かりました」


土方が去った後、向こうの方から悲鳴と殴る音が聞こえてくる。

しばらくしてラケットを片手に戻ってきた。


(…遺品?)

斉藤は何となく持ち主の予想がついた。何となくではなく確実にそうなんだろうけど。


巻き藁相手に真剣を振るっていた隊士達の手が止まる。副長が刀ではなくラケットを持っていたら驚くのは当たり前であろう。


そんな隊士達の目線に気付いた土方は「あー…」と呟くと、

「お前等、ミントンした事はあるか?」

そう問いかけた。


しかし答える側の隊士達は口を開けて唖然としている。剣術とミントン、どう関係あるのかと。

斉藤も首を傾げ不思議そうな顔で土方を見ていた。


「…あるか?と聞いている」

顔をしかめ睨んでくる副長。隊士達は身を凍らせて激しく首を縦に振り頷く。


「…スマッシュを打つ時、まず半身の状態でラケットを振りかぶるだろ?」

土方はそう言うと右足を後ろに持っていき右手に持っていたラケットを上に構える。


(…山崎みたい)

斉藤は鬼の副長と地味な監察を重ねる。


「…お前等、その後どうやって打つ?腕の力だけで打つか?」

隊士達は一斉にスマッシュを打つような真似をし始めた。

周りから見たら異様な光景である。


「重点を置いていた後足を蹴り上げて勢いをつける。上体を前に戻しながら腰、肩、肘、手首の順に力を伝えていく感じで打つだろ?…斬る時もそんな感じだ。腕の力だけじゃなく体を使って斬るんだ」


――あ、そうくるか。


斉藤は感心したように目を丸くした。

隊士達も「なるほど」と言った感じに頷く。

「身近なもんで例えるとこうなる」

土方はラケットでトントンと肩を叩いた。





「……だからいつも素振りしてるの?」

前を見据えたまま斉藤が誰かに問うと傍の岩陰から「えっ?!」という声が聞こえた。

「い、いやぁ…」

声の主は困ったように黒髪を掻く。


「…ちなみにだ」

土方は巻き藁の前に立つ。



――嫌な予感。



岩陰に隠れている黒髪の青年の額から冷や汗が溢れ出た。


土方はラケットを刀のようにして平青眼に構えると巻き藁に向かって車にまわした。

当たり前だが巻き藁は斬れる筈がなくラケットは真っ二つになり網の部分が遠くへ吹っ飛ぶ。


「ラケットで人を斬れる筈がない。練習は刀でするように」

そう言うと岩陰に向かってグリップを放り投げる。

宙でくるくると回転し、岩陰にいた黒髪の上にゴツンと落ちた。


「あぁ……俺の限定50本プレミアムラケットがぁぁ…」
「…まぁ…趣味は趣味だよね」




最後に吃驚するような事を書きますが、

人の斬り方=スマッシュの仕方

なんていう確証はないです。


ただ、何となく似てるなぁ、と思った妄想でした(斬り方、スマッシュの仕方は調べています)

でも捏造ですよ。本気にしちゃあダメですよ。でもこう考えると山崎って凄くないですか?




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