小説

土方と原田 3

公園には少年達の他にも、数名の子供がブランコで遊んでいた。原田は両手をポケットの中に突っ込んだまま少年達に近寄る。

「くぅらぁーガキ共ぉ。そいつぁ嬢ちゃんの大切なもんじゃねぇのかぁ?」

大柄な体格、強面、ハゲ頭、大人ならば堅気ではない職業を連想する。しかし、怖いもの知らずの子供達は強気だ。帯刀すら目に入らない。

「なんだよおっさん。関係ないだろ」
「お、おっさん……」

二十八歳独身彼女歴なし。おっさんと呼ばれるのは大変抵抗がある。少々苛つきはしたものの、相手はまだ子供。こんな些細な事で手を上げるなんてもっての他、怒鳴るわけにもいかない。原田は口角をひきつらせながら「は、は、は」と空笑いをした。

「男ってのは女に優しくするもんだぞぉ」
「誰が決めたんだよ、そんなこと。男女差別じゃん」

他の少年達も「そうだそうだ」「不公平だ」と口々に言い出す。原田の怒りバロメーターの針が半分を差した。
まだ理性は保てる。原田はハゲ頭に青筋を立てたまま、ひきつった笑顔を浮かべた。

「し、しかしなぁ。一人の子を寄ってたかって苛めるのは如何なもんかねぇ」
「苛めなんてしてねーよ。遊んでるだけだよなぁ?」

少年は少女に問い掛ける。泣き止んでいる少女は、赤い目をぱちくりとさせて、少年と原田を交互に見た。

「え、え」

少年から「遊んでるって言えよ」と言わんばかりの威圧ある視線が突き刺さる。原田からは「苛められてたんだよな」と言わんばかりの迫力ある強面が向いている。混乱した少女の目に、再び涙が溢れてきた。

「あ、いや」

もし、ここで泣き出されたりでもしたら、端から見れば、原田もいじめに加担しているように見えなくもない。原田は目を泳がせて少女から顔を背けた。

「とりあえず、その人形は返してやれ」
「やぁだね。きったねぇ人形の事をかたみーかたみーとか言って、気っ持ちわりぃ」
「お前等にとっちゃあ何でもねぇもんでも、この子にとっちゃあ宝物なんだ。お前等だって自分の宝物奪われたら嫌だろ?嫌な事を人にやっちゃあいけねぇ」
「自分がされて嫌な事を嫌な奴にするのが良いんじゃねーか。なんで好きな事をしなきゃならないんだよ!」

あぁ言えばこう言う、全てを理屈で返してくる少年に、原田の怒りバロメーターは煙を噴き、限界を迎えようとしていた。
少年も相当苛ついてきたらしく「もぉーっ!!」と叫び、地団駄を踏みながら怒りを露わにした。

「い!い!か!ら!おっさんあっち行けよーっ!邪魔ぁー!!」

他の少年達も彼に続く。

「そうだぁ!向こういけー!」
「先生に言うぞー!!」
「あっちいけーっ!」

そうして最後には「いーけ!いーけ!」の大合唱となった。
原田の拳が小刻みに震え出す。怒りバロメーターの針が振り切れ、止めていたネジが弾け飛んだ。

「くぉんのクソガキ共ぉーっ!!そこに直れェェェ!!!頭かち割って腸引きずり出して犬の餌にしてやらァァァ!!!」

原田は目を血走らせて、血管が浮き出た拳を振り上げる。本当に今にも殴り殺さんばかりの勢いで怒鳴り声を上げた。
あまりの恐怖に子供達は固まる。一人の少年の体が震えだし、嗚咽のような声を出し始めた。原田に言い返していた子も、目を潤ませ、歯をガチガチと鳴らしながら震えている。

「う、うわぁぁーん!!!!」

次は、子供達の泣き声で大合唱となった。人形を奪われた少女までもが恐がって大泣きしている。
原田は焦る。先程までの怒りは、何処かへ吹き飛んでしまった。

「え?え?ば、お前等、んな泣くなよ」
「ガキ相手にあんな啖呵切ったらそりゃ泣くぜ?」

振り返れば、いつの間に来ていたのか、土方が呆れ顔で立っていた。

「見てたんなら助けてくれても良かったじゃねぇか!」
「勝手に突っ込んだ奴がどうにかしろよ」

子供達の大泣きに、周りにいた大人達が何事かと集まってきた。いい大人が小さな子供を泣かした、その様な会話がなされているのだろう。野次馬は原田達を見ながらひそひそと囁き合っていた。その中に、先程の女性集団も混ざっており、皆一様に、原田に向かって軽蔑の眼差しを送っている。
人形を持っている少年は、目をしきりに擦る。負けず嫌いなようで、顔を真っ赤にさせながら原田を睨みつけた。

「ひっく、くそぉー……これでどうだ!」

少年は持っていたクマの人形の両腕を引っ張り、前に突きだして叫ぶ。

「言うことを聞かないと、この人形千切っちゃうぞ!」

クマの人形を人質のように扱ってきた。

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