小説

沖田と永倉 2

自室に戻った沖田は、暑かった為に布団を被らずに寝た。体に籠もる炬燵の熱が冷める頃、さすがに寒くなり目が覚める。寝ぼけながら足元の布団を手繰り寄せて再び寝た。


――結果、風邪を引いた。


平熱以上の数字が出た体温計を枕元に置き、布団から出た。鼻水が出て咳も出る。少し怠い。しかし、沖田は眠れなかった。何処から風邪菌をもらったのか、もしや昨日斬った浪士からもらったとか、バイオテロか――など、色々な事を考えたのだが眠くならない。
昨晩から読み出した雑誌を引っ張りだし、山崎に出させた炬燵の中に潜り込む。副長室に忘れた雑誌だったが、部屋の主が朝方、沖田の自室まで持ってきた。「このクソ忙しい時に」という嫌味の言葉の置き土産付きだ。
心配の言葉など微塵も期待していないが、風邪を引きたくて引いたわけではない。腹が立った沖田は、わざと土方の目の前で咳をした。移っている事を期待している。
雑誌を読んでいると眠くなってきた。この雑誌には、睡眠効果が付与されているのかもしれない。寝てしまおうか、と思ったその時、襖が叩かれる音がした。

「沖田ー入るぞー」
「そこの棚より小さい奴は立ち入り禁止だぜィ」

高さ160センチの棚の横で、小柄な青年が顔をひきつらせた。
訪問早々、自身への禁句を投げ掛けられた永倉は、青筋を浮かべつつ襖を閉めた。こたつむり化している沖田を見て眉をひそめる。

「熱あるんじゃねぇの?」
「ある。んな高くねぇけど。何か用か?」

永倉の方は見ずに、雑誌を読みながら言った。すると、顔の横でビニール袋が擦れる音がした。見ると、飲み物と小さな紙袋が入っているコンビニ袋があった。

「山崎が薬って。後、飲み物」
「二番隊の隊長様がパシリかよ」
「差し入れの飲み物を持って行くついでだったから!」

永倉はその場で座り、呆れたように溜め息を吐く。

「だから、炬燵で寝たら風邪引くって言ったじゃん」
「何でィそれ。いつの話」
「昨日、副長室で寝てただろ」

沖田は瞬きをして、永倉を見た……が、すぐに視線を雑誌に戻す。

「覚えねぇや」
「……あれ、寝言だったんだ……すげぇハッキリと聞こえたんだけど」

どうやら彼は怒っているようだが、沖田は別にからかっているわけではなく本当に覚えがなかった。記憶の片隅にもない事なんて知らない。大体、炬燵で寝たら風邪を引くなんて迷信じゃないのか。迷信でなければ、バイオテロなどではなく、引くべきして引いた風邪だったという事か。

「すぐ治る」

沖田は雑誌を閉じて起き上がる。引いてしまったのは仕方がないし、それに症状はそんなに酷くない。

「まぁ……んな悪くはなさそうだけど」
「昨日、俺が華麗にとっ捕まえた奴の尋問頼むぜィ」

そう言うと沖田は、永倉が買ってきたという飲み物を飲み、薬はそのままにして再び、炬燵に潜り込んだ。

「はいはい……って、お前、また炬燵で寝る気か?」
「もう風邪引いてっから平気だろ」
「そういう問題じゃねぇよ」

背後で怒気を含んだ声がする。沖田は構わず、亜麻色の頭が見えなくなるまで潜り込んだ。

「炬燵姫が俺を離してくんねぇんだ。まいったねィ」
「何言ってんだバカ。布団で寝ろ」

本当に炬燵は最高の暖房器具だ。ずっと入っておきたかったのだが、小柄な青年が、姑の如くうるさかったので、渋々と布団へ移動した。

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