過去の日記から
新境地バトン2


【E】街に買い出しに行く[5]。[2]に買い物メモを渡され、半分パシリに使われた。
→※5:近藤 2:土方


「近藤さん、いい加減総悟の破壊行動を止めさせなきゃあ真選組が破産するぜ」
「むぅ…確かに」

局長室で近藤と土方が、台帳を挟んで話し合っていた。内容は真選組のお財布事情。ほぼ毎日一番隊隊長が破壊行動を繰り返す為、積もりに積もった弁償が相当な額になっていた。

「税金泥棒っつわれても仕方ねぇぜこりゃあ」

苦々しく顔を歪める土方の前で近藤は困ったように眉尻を下げた。人差し指でトントンと叩かれる台帳を見ながらボリボリと首の後ろを掻く。

「うーん…総悟にはキツく言っておかなくてはならんな…」

はぁ、と嘆きの息を吐いて立ち上がった。

「ちょっと買い物に行ってくる。丁子油がもう無くなりそうだっただろ」
「んなの他の奴にパシらせろよ」
「気付いた者が買い足せば良いんだ」

上下関係なく自ら足を運ぼうとする上司に土方はやれやれといった感じで短い溜め息を吐いた。
土方も立ち上がり、局長室の襖に手を掛ける。襖を開けるスゥーと乾いた音と共に「あ」と何か思い出したかのような声を上げた。

「じゃあついでに…」

懐から紙切れを取り出して、身支度中の近藤に渡す。

「ん?」

紙切れには『マヨネーズ300本』と書かれてあった。

「買っておいてくれ。隊の食費にあたるだろ」
「…え?」


――まさか隊費で買えと?


呆気に取られている近藤を余所に土方は「頼んだぜ」と言い放ち去って行った。



⇒普通にありそうで


【F】[5]が街に行っている時に[2]と[4]が喧嘩を始めてしまい、止める人が居なくて大騒ぎに。そんな時、[3]が一喝すると[2]と[4]を含む全員が黙った。
→※5:近藤 2:土方 4:山崎 3:永倉


襖が粉砕された。畳が大きく斬り裂かれた。屋根に大穴が空いた。中庭の松ノ木が薙ぎ倒された。
これらの被害は不逞浪士でもえいりあんでもない。たった二人の隊士の手によって破壊された。

紫電一閃された土方の刀を山崎は後方に飛んで避け、砂利を鳴らして着地する。低姿勢のまま地を蹴り、腰を捻りながら間合いを詰めた。土方が次の一手を繰り出す前に懐に入り込んだ山崎はラケットを横に開いて胴を狙う。
木枠が土方の脇を完璧に捉えた。相手の体が僅かにくの字に曲がる。

手応え有り――山崎は勝利を確信した。だが、土方は転倒せず、足を踏ん張って猛撃に耐えた。そして山崎の腹に拳をめり込ませ、その体を高々と突き上げる。
打たせて取る、土方は山崎が近場に攻め込んでくるのを待っていたのだ。

山崎は猫のように宙を回りながら着地した。彼の戦闘意欲はまだ失っていない。咳き込みながらも土方を鋭い眼差しで睨み付けていた。


「…このままじゃ屯所が潰れる」

終わり無き喧嘩を前に永倉は顔をひきつらせていた。

「源さんは?」

近藤以外これを止める事ができるのは井上だけだ。永倉は縁側で座る沖田に問う。

「出張」

そうだった、永倉は落胆し、力無く両肩を下げる。

「良いじゃん、放っておこうぜィ。なんならどっちが勝つか賭けるか?」

呑気に煎餅をかじりながら見学している亜麻色頭を殴ってやろうかと思った。
呑気なのは彼だけだ。周りの隊士達は怖々と二人の喧嘩を見ている。
中には勇敢にも止めようとした隊士がいた。しかし、止めるどころか喧嘩の巻き添えを食らい気絶させられるという悲劇を辿っている。

「このミントン馬鹿が!!俺に勝てると思ってんのか?!」
「あなたの考えは間違ってます!!いい加減目を覚まして下さい!!」

怒号と破壊音が交錯する中、永倉はこめかみに青筋を浮かべながら見ていた。力強く握り締めた拳が小刻みに震えている。

「これはどうですか?」

山崎がラケットのグリップを土方に向けると先端から幾つものシャトルが飛び出してきた。それはまるで銃弾のように早く、当たれば身を貫きそうな程だ。

「ふん、そんなも」
「もう止めんかァァァー!!!!」

シャトル銃弾が土方に届く前に、横合いから飛んできたバズーカの砲弾が二人の間に着弾した。轟音と共に黒煙が二人を包む。

「…」

一同静まり返った。煎餅をかじる音だけがやけに響く。
青筋を浮かべた永倉がバズーカの銃口で地面叩き、煤だらけになった土方と山崎を見た。

「なんなわけ?いつも何が原因でこうなるわけ?つか何で刀とラケットなわけ?ラケットが銃になるわけ?ミントンって何?」

ゼェゼェと肩で息をしながら永倉は二人に問い詰めた。興奮しすぎて、最後の方は恐らく自分でも何を言っているのか理解できていない筈だ。

「…だって…いつも副長は夕飯にたっぷりとマヨネーズを付けて…」

俯きながら話す山崎の前で土方はフンと鼻を鳴らし、そっぽ向く。

「だからそっちの方が美味くなるっつってんだ」
「栄養バランスを考えているんですよ?!俺、毎日副長の体調を元にレシピを考えて作ってるのに…それを壊すような…」
「!!」

土方の目が見開く。振り向いた先に立っている山崎は悲痛な面持ちで上司を真っ直ぐに見据えていた。

「俺…俺…いつも副長の事…!!」
「山崎…そこまで、俺の事を…っ!!」

地面の亀裂から細い黒煙が上がる。その周りを星が散りばめられたようにキラキラと輝き始めた。
無言でその様子を見ている永倉の頭の中は、一転した雰囲気によって真っ白になっているであろう。煎餅をかじっていた沖田までもが手を止め、突然変わった二人を凝視していた。

「副長!」
「山崎!」

何処からかスポットライトが二人を照らす。二つのスポットライトは合わさり一つになった。

「…帰ろ」

永倉はバズーカを放り投げ、自室へと戻っていった。



⇒…あれ?

ちなみにこれはただのネタです。このバトンだけのネタです。一度土方と山崎を戦わせてみたかっただけのネタです。最後も成り行きで深い意味はありません。


【G】「実は魔法使いなんです」とカミングアウトする[3]に対し、「知ってたけど?」と、冷たい反応の[4]と[1]。
→※3:永倉 4:山崎 1:沖田


「実は俺、魔法使いなんだ。それで魔法でこの背丈になったんだ。本当は165センチなんだ」

真選組一の低身長、永倉新七。彼自ら背丈の事で話をするのは珍しい。真剣な面持ちで目の前にいる沖田と山崎を見つめた。

「あぁ、分かる分かる。それで二十歳超えてもんなチビなんだねィ」
「それでも165センチなんですね」

軽く流す二人に対して、小柄な青年は「う」と潜った呻き声を洩らした。
これもまた珍しい。普段であれば、外見を馬鹿にされる事が大嫌いな彼は憤慨し、腰に携える刀を閃かせる。しかし、今はただ黙って宙を見据えるだけだった。

「永倉…諦めろ」

沖田は永倉の肩をポンと叩いた。小柄な両肩がピクリと上がる。

「魔法使いでもなんでも良いですから、お願いしますよ…永倉さんしかいないんですから…ね?」

両手を合わせ懇願する山崎の声を永倉は両耳を塞いで聞こえない振りをする。そんな彼を見て沖田は盛大に溜め息を吐いた。

「仕方ねぇじゃねぇか。あそこに入れるのおめぇしかいねぇんだから」

そう言い、頭上にある小さな窓を指した。山崎もその窓を見上げながら眉尻を下げた。

「しかもあの先…ちょっと足元が壊れやすくなってるんですよ。体重が軽い人でなきゃ」
「大体こうなったのもてめぇが幕府に手ぇ出すからだろ!!」

山崎の言葉が最後まで言い終わる前に、永倉は沖田の胸倉を掴んで怒鳴り声を上げた。沖田は面倒臭そうに顔を歪めながら亜麻色頭を掻く。

「ちょっと行って鍵取ってくるだけじゃねぇか。大丈夫、見つかりっこねぇって。確率的に70%ぐらいかねィ。自社調べ」
「結構な確率じゃねーかァァ!!!つかなんだよ!自社調べって!!」
「シーッ!永倉さん声大きい…!!」

慌てて山崎は人差し指を口元に当てながら永倉を制した。ハッ、と我に返った永倉は軽く咳払いをし、こめかみに手を当てながら眉根を寄せる。

「完っ全に巻き込まれた…」
「運がなかったんですよ…お互いに」

二人の溜め息が屋敷の一室内に虚しく響き渡る。
一方、事件の発端人はどこ吹く風か、畳の上に座り込み、一枚の紙を広げていた。

「鍵さえありゃあ、ここを開けれるんでさァ。ゴールはもうじきだぜィ」

沖田が言うには不法賭博の証拠品がすぐそこにあると言う。自分と同じくたまたま通り掛かった山崎も巻き込んだ今回の事件。ここに来るまでにも危険な目に何度も遭った。
大型攘夷組織を相手にした方がマシだ、永倉は軽い眩暈がし、頭を押さえる。

「つかさ、魔法使いなら魔法で鍵開けれっか?」

沖田はニヤリと笑い永倉を見た。

「本当に使えるんなら今直ぐ屯所に戻るよ…」

そうは言ったものの、ここまで来たら引き下がるわけにはいかない。人間同士を殺し合わせる非人道的な不法賭事。乗ってしまった船だ、途中下船は後悔の海へと沈む事になる。
永倉は意を決して小さな窓を見上げた。



⇒頑張れ永倉




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