小説 1

未来がどうなるか決まってたら面白くないよね2





夕飯を食べ自室に戻ってきた土方は目の前で寝そべり菓子を食べている沖田を見るなり溜め息をついた。

「お前…俺の部屋を何だと…」
「出来立て書類を持ってきやした」
「ほぉ、その菓子クズだらけの紙がそうか、そうなのか」

少し油がついた紙をこちらに見せてくる沖田に向かって青筋を立てる。
とりあえずそれを奪い取るとパンパンとゴミ箱の上で菓子クズを叩き落とし机の上に置いた。

「今日の朝稽古、ちょっとやりすぎじゃねぇか?」
「じゃがバター味も中々うまいですねィ」
「ガキみたいな嫉妬も大概にしとけよ」
「次は豚しょうが焼き味に挑戦でさァ」
「……聞いてる?」

土方の言葉を右から左へ受け流す沖田にまた溜め息がでる。

「…俺はいつでも全力投球でさァ」
「見回りもそれだけ全力投球で行ってくれよ……ほれ」

沖田に向かって一枚の紙を差し出す。身を起こし書類のやり直しかと怠そうな顔でそれを受け取る。

一通り見ると顔を上げ土方を見た。

「…これアンタが?」
「いや、本人の希望」
「ふーん…」
「惚れられたな」

渡された紙は新入隊士が各隊に配属され隊を編制し直した表だった。一番隊には朝手合わせた新入隊士の名が書かれてある。
目が据わり頬杖をついている沖田をニヤニヤしながら見る土方。

「だったら神山外してくだせィ。五番隊にでも放り込んで」
「却下。前に外そうとしたらストーカーされたんだぞ。後、五番隊はゴミ箱じゃない。あれでも一応バランスが取れているんだ」




田中清二郎は非常に前向きで明るくすぐ真選組に溶け込んだ。

始めは嫌々だった沖田も次第に慣れ普通に話すようになり、団子屋など一緒に行くようにもなった。

近藤も「始めはどうなるかと」と安堵し、土方は「やっぱガキだな」と鼻で笑った。

聞けば実家には妻がおり産まれたばかりの子供もいるらしい。女の子で「この子は美人になる」「嫁には行かせない」「二十歳になっても一緒に風呂入るんだ」と写真を見せ嬉しそうに話してくれた。


しかし、ただ一つ問題なのが入隊してから三週間程経つが一度も実戦経験がない、という事だ。いくら腕が立つといっても真剣勝負の場数を踏まないと度胸がつかない。それに人を斬る事に恐怖を覚える質だとしたら厄介だからだ。


「攘夷志士達はみんな休暇でも取ってるのでしょうかね。全然動きがなければ情報もないです」
優秀な監察がこう洩らした程だった。
「山崎…それでも何か掴むのが監察だよな。お前も永久休暇取りたいか?」
…と、鬼の副長に睨まれ「ハイィィ!!!」と身を縮ませたのは言うまでもない。


そんなある日、沖田と田中は市中見回りついでに団子屋へ寄っていた。

「しかしまぁ…こう平和だと暇だねィ」
「ハハハ、良い事じゃないですか」

食べ終わった串を口に加えプラプラと揺らす。田中は隣でお茶を飲んでいた。

「お前未だ人斬ってねぇんだぜィ?その腰にある刀は飾りか?」
「そこらの人を斬るわけにはいかないですからねぇ。でも巻き藁だったらうまい事いきましたよ」
「動かない相手斬ったってねェ…」

袈裟斬りの真似をしながら話す田中を横目で見る沖田。巻き藁を食い込むだけに終わらず真っ二つに斬る事ができるのも凄い事なのだが、実戦では相手は人、しかも殺る気満々の者だ。ただ突っ立っている巻き藁とは訳が違う。

少し前までは自分の大好きな近藤さんを取られるのではないかという独占欲丸出しで嫌悪していた相手だが今は違う。
凄腕の剣の使い手となり右腕として働いてくれるのではないかという期待感があった。

自分は無敵なので抜かれる事はないし。



「ごちそうさまァ」
「御馳走様でした」

2人は団子屋を後にすると再び市中見回りへと足を運んだ。



「今日も収穫なし」
「平和でしたね」

夕暮れ時になり結局今日も町をふらついただけになりそうだった。
普段はサボって寝ている沖田でもこう何もないとさすがに仕事なくふらついている某万事屋の旦那と自分を重ねてしまう。



「――!!」
おや、もしかして来たのでは?懐かしい感覚に胸が躍る。

「隊長?」
「きたかも」
「え?」

横を歩いていた沖田の足が突然止まったのを見て不思議そうな顔をする田中に沖田は前を見据えたまま答えた。

案の定、建物の間から刀を下げ攘夷志士と思われる者が数人こちらへやってくる。

「真選組沖田総悟だな?」
「久しぶりですねィ。もう全滅しちまったのかと心配してたところだったんでさァ」

沖田は鼻で笑うと田中にそっと耳打ちをする。

「いいかィ?思いっ切り踏み込め。下手に細かい傷をつけると相手は逆上するからさァ。死にものぐるいでこられるとアンタじゃあ手に負えなくならァ」

田中はコクリと頷くと抜刀した。

「お命頂戴する」
「国家予算出されてもあげれませんぜィ」








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