小説 1

クサノオウ14

「やりましたね」
「ちょろいもんよ」

散乱した酒瓶の欠片、血とアルコールの臭いが辺りに充満している。

「見たか?アイツ等のあの面。物の怪を見たような!可笑しくて仕方ねぇ!」
「いやいや、全くですな」

長くて黒い髪の男は肩を揺らしながら笑う。足下に転がる死骸をひと蹴りし、ソファに座った。

「他の奴等はどこへ行った?」
「隣の部屋で物色しております」

男はフンと鼻を鳴らし懐に手を入れた。

「ん?煙草はどこに…」
「ボス」

隣にいた男が一本の煙草を取り出した。ボスと呼ばれた男が無言でそれを受け取ると口に加える。煙草を渡した男がライターを取り出しそれに火を付けた。

「薬が真選組に渡ったらしいじゃねーか。どうするつもりだ」
「ご安心下さい。アイツ等は龍昇組はもう壊滅したと思っております。これからは黄琥組の名を使い活動すれば良いこと。ボスのご友人…幕府の官僚様には何の迷惑もお掛けはしません」
「そうか。もうじき俺もアチラの仲間入りだ」

男は煙草を吹かし、満足気に紫煙が上へ昇るのを見つめる。


「…っぐォ?!」

突如煙草を吸っていた男が喉を押さえ苦しみだした。煙草が手元から畳に落ちる。

「がっ…かっ…!!」

瞳孔が開き喉を押さえている手が震え、ソファから転げ落ちた。落ちた煙草がソファに燃え移り炎が広がる。

隣にいた男はその様子を無言で見ていた。






「俺の煙草に仕込むのはやめてくれよ」

男は声がした方へ目を向ける。煙草を吹かした目つきの悪い男が立っていた。

「副長」
「捕縛しろと言った筈なんだが」
「こうなる事を予想して俺一人行かせたんじゃないんですか?」

痙攣している男を一瞥し、目つきの悪い男の元へ歩み寄る。

「…ただの麻薬所持の調査が大層な事になったな、山崎」
「本当ですよね。やはり潜入先の者とは関わるべきではないです」

山崎は懐から黄色い花を取り出した。土方はボリボリと頭を掻き溜め息と一緒に紫煙を吐く。

「関わったから少年の願いは叶ったんだろ?」
「そうですね」

山崎は微笑み、黄色い花を燃えさかる炎へ投げ入れた。

「行くぞ」
「はい」





名前:「草の王(クサノオウ)」「瘡の王」「草の黄」
科名:ケシ科 クサノオウ属
花色:黄色
花言葉:「思い出」「私を見つけて」

全草に「ケリドリン」や「プロトピン」などのアルカロイド成分を持つ有毒植物。茎や葉に毒が多く誤飲すると、「嘔吐・下痢」「呼吸困難」「手足のしびれ」等を引き起こし、死に至る場合もある。






Fin...







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