小説 1

クサノオウ12

――だから潜入先の者と接するのは嫌なんだ。

山崎はしゃがみその頬にかさぶたがはった小さな顔に触れる。氷のように冷たい、当たり前だ、もう死んでいるのだから。

「…知り合い?」

山崎に連絡をした原田が隣でしゃがむ。張り込んでいた山崎なら何か知っているかもしれないと思って連絡をしたようだ。

「いや…そこまで知り合いという訳じゃあないんだけど…」

まさか組のボスだったなんて、眉を下げ溜め息を吐く。
前に銀時から依頼主、ボスの特徴は聞いていた。だが、少年がそうだったなんて思いもしなかった。

――いや、そんな訳ないじゃないか。少年は自分以外と話した事がない、と言っていた。しかし、目の前の死体は紛れもないあの少年だ。

「旦那、主人はどんな人でしたか?」

山崎は立ち上がり銀時を見る。

「あ、あぁ…いかにもボスって感じで上から人を見下したような?」

聞く限りではあの少年とは違う、俯き考え込んでいる山崎に銀時は首を傾げる。

「あれ?違った?」
「俺が話したことのある子はそんな感じは全くしなかったですね…原田、副長には連絡したの?」

しゃがんでいた原田は「あ」と声を出し急いで携帯電話を取り出した。
山崎はそんな原田を見て溜め息を吐くと銀時から背を向ける。

「どっちにしろ今回は麻薬所持の事だけですから」
「ん?あ、良いんだ。別に」
「別人だったとしても俺らには関係ないでしょう?」

山崎は銀時にそう言い放ち屋敷の出入り口へ歩き出す。

「仲良かったんじゃねーの?」
「顔を合わせていたのは数日間ですよ。俺、討ち入り現場すっぽかしてきちゃったんで…失礼します」

山崎はそう言うと出入り口に向かって歩き出す。

もう余計な事に首を突っ込むのは――








――止めたかったのだが、なぜまたこちらに来たのか、

山崎は三日ぶりに少年がいた屋敷にいた。
こちらは何事もなかったようだ、いつもの静かな雰囲気が漂っている。

案の定、納屋の方はもぬけの殻だった。山崎は屋敷の方へ行き屋根裏へ忍び込む。
三日前に簡単に入り込めるように細工をしておいた。


「間一髪だったな」
「真選組が来ている。あそこはもう捨てるしかない」

人が数人、円になって話し込んでいる。本部が襲撃された事だろう、山崎は耳をすました。

「あいつが寝返ったのか」
「金奪うだけ奪っておいて何て奴だ!!」
「これだから天人は」
「お、おい…!!」

一人の男が吐き捨てるように言った台詞に別の男が慌てて止めたその時、銃声が屋敷内に響きわたり男の頭から血が噴き出す。

「天人だから何だって?」


――え?


銃を手にした者の姿を見て山崎の目が見開く。子供のような小さな背丈、長い黒髪を揺らしながら男達の輪に歩み寄って行った。

「ボス!!」
「その天人様のおかげで生活が便利になったんじゃねーのか?」

男達を見下すその顔の頬には傷がある。
その姿は山崎が知っているあの少年そのもの、だが雰囲気が全く逆だった。

「あいつを寝返させたのは俺だよ」
「え」

少年の姿をし、ボスと呼ばれた男はニヤリと笑う。頭から血を流し痙攣している男を足で退け、そこに胡座をかいた。

「今頃奴等は俺を殺ったと勘違いして宴の準備でもしてんじゃねーか?酔っぱらったとこを襲撃すりゃあ良いんだよ。ちったぁ頭使えよ」
「さ、さすがボス!!」
「だからガキを本部にやったんスね!!」

ボスは煙草を加えた。瞬時に横にいた男がライターを取り出し煙草に近づけ火を付ける。

「俺の顔に傷つけた代償を思い知るが良い」

紫煙を吐き出し声を出して笑った。







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