小説 1

クサノオウ 8

山崎は屋敷から持ってきた白詰草を入れた袋を持ち屯所の縁側を歩いていた。

外は太陽が半分落ちており、そろそろ辺りが暗くなる頃だった。

「お、山崎。副長探してんの?」

ちょうど十番隊隊長の自室の前を通ると襖が開き、ハゲ頭が姿を表した。山崎の足が止まる。

「いや、鑑識の所」
「ふーん、何だそれ?」

原田が山崎の手元にある袋を指差した。
山崎は「これ?」と袋を上げる。

「白詰草」

袋を開け中身を見せる。原田は自室の襖を後ろ手に閉めながら袋を覗き込んだ。

「何?誰かにやるの?」
「誰にこんな乾燥した花あげるんだよ。鑑識に掛ける」
「はぁ、鑑識に…」

「何で?」と言った感じに不思議そうにしていた原田だったが、突如「あ」と声を上げた。

「コイツの花言葉知ってるか?」
「花言葉?…うーん…幸福とか?」
「それ四つ葉。花は約束、私を思って」
「ふーん」

山崎は目を丸くして乾燥した白詰草を見た。花言葉よりこの男がそんな事を知っていた事に驚いたが。

「後ひとつ、復讐ってのもあるんだぜ」
「えぇー!何だかひとつだけ雰囲気違うなぁ…」
「なぁ?天人の考えるこたぁ分からねぇなぁ」

花言葉はどこの国からかは不明だが、いつの間にか日本に知れ渡った言葉だ。
花を渡す事によって、直接言葉を交わさずとも互いの意志疎通や感情を伝える事の出来る手段として作られたという。

一応、草花の色や背丈、見た目や香りを言葉に置き換えていると言われているが。

「…何で原田がそれを知っているかも分からないんだけど」
「え」

学問のがの字もない男が自分の知らない花言葉を知っている事が少し腹が立つ。
山崎は袋の口を締めながら原田を見た。

「あぁー…アハハハ…まぁ…」

苦笑いをし、目線を山崎から反らしながらハゲ頭をボリボリと掻く。

女性関係だな、原田がこんな感じで誤魔化す時は大抵そうだ。もちろん失敗方向の。

「ほら、早く鑑識行って来いよ」
「…っと!」

原田にドンと背中を押され前へつんのめる。背中をさすりながら山崎は口をへの字に曲げ、去っていく原田の背中を見た。




白詰草を鑑識に持って行った後で副長室に向かった山崎だったが、途中出会った隊士に留守だと聞きどうしようかと悩む。

副長に連絡するのは銀時から教えてもらった住所に行ってからでもいいか、と思い再び屯所を出た。


いつもの必須アイテム、あんぱんと牛乳を買う為にコンビニに寄る。

この前、同じ監察の篠原に「何でいつもあんぱんなんですか?」と聞かれたので願掛けだと答えた。
「ふーん」と聞いてきたくせに適当に流しやがったので脳に糖分を与えると活性化するからと後付けした、事がいけなかった。

それから約1時間、脳に関する知識をこれでもか、という程語られた。とりあえず脳に与える糖分は果物のような天然系の糖分が良いという部分だけ頭の中に入れておいた。

だからと言って果物は買わない。あんぱんだ。クリームパンでもジャムパンでもロールパンでもない。あんぱんを買う。

あんぱんを取った後、牛乳を取ろうと棚に手を伸ばす。すると横から同じく手が伸びてきた。

「ん?」

隣を見るといちご牛乳を取る銀髪頭、

「あれ?ジミー君じゃん」

ジャンプを片手に持った万事屋の坂田銀時が居た。







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