小説 1

梅雨時に天の川を見ろって無理がある

(ALL)


『今年も天の川は見れそうにないですね。梅雨明けは来週になりそうです』

結野アナがブラウン管の中で今日の天気を伝えている。
外は曇り空。毎年毎年この日は晴れないな、沖田はそう思った。

庭には色とりどりの短冊が飾られた竹が立っている。一昨日隊士総出で準備をした。

ちなみに昨日は原田の誕生日で宴、今日は七夕で宴、明日は自分……
七夕って祝う必要あんの?と思うが…酒が呑めるので気にはしないことにした。

ともかく何かにつけて宴を開く集団だ。近所からは騒音で迷惑がられているが。

「呑みすぎた…。頭痛い」

ふと声がした方を見る。
「うー」と唸りながら頭を押さえ歩いてくるバンダナ頭の青年。横にいる小柄な青年がその様子を見てケタケタと笑っていた。

「今日の宴は凹助辞退…と…」
「バ、バカ言え!あ、あいたたた…」
「一人分の酒が空いたなぁ〜…あ、沖田おはよう」

沖田に気づいた小柄な青年が手を上げ挨拶をしてきた。

「おはよー永倉」
「こいつ二日酔いでやんの。丘と飲み比べなんかするから」
「丘はざるだからねィ」

ニヤニヤと笑う永倉と沖田。
そんな2人を面白くなさそうに横目で見ていたが再び「イテテ」と頭を押さえた。

「…チッ、薬もらってくる」

そういうと「ザキー」と監察という名のパシリを呼びながら通り過ぎて行った。

「トリプル宴の初日にあんな事するバカはそういないだろィ」
「まったくだ」

泣く子もだまる特別武装部隊真選組が連夜宴を催しているのも庶民からみたらバカな行為かもしれない。万事屋の銀髪がみれば「税金で酒呑めて良いねぇ」と皮肉たっぷりこめて言われそうだ。

「雨降りそうだな」

空を見上げながら永倉は言う。

「短冊何て書いた?」
「教えねェ。叶わなくなる」
「どうせ副長になれますように、だろ?」
「永倉は背が伸びますように、だろィ?」
「うっ」

図星だったようだ。

「…これで伸びなかったら沖田のせいだ」
「安心しろィ。もうお前の身長は止まってらァ」







隊服に着替え市中見回りに行こうと廊下を歩いていると近藤に会った。

「お、総悟今からか?」
「ヘイ」

相変わらずの満面な笑みで沖田の頭を撫でる。どう考えても子供扱いされているのだが近藤にされると悪くは思わない。

「明日何がしたいか考えておけよー」
「土方抹殺」
「トシ関係以外な」
「チッ」

一番の望みを即却下されてしまい思わず舌打ちをする沖田。
毎年近藤は誕生日に一つだけ沖田の為に何かしてくれる。
一緒に食べに行ったり、何か買ってもらったり。

「近藤さんと星見ながら2人で酒呑みたい」
「星?天の川か?」

近藤は空を見上げる。少し暗めの雲が辺り一面に広がっていた。

「よし!分かった!!鬼嫁用意して待ってるぞ!」

ニカッと笑いポンポンと亜麻色頭を軽く叩き去って行った。

星なんて見れそうにないのは一目瞭然なのにそれを言わないのは実に近藤らしい。

武州に居た頃は毎年綺麗な天の川が見れていたのに。
近藤さんに肩車をしてもらい一緒に夜空を眺めていたなぁ。少し離れた所で姉と土方が2人で空を見上げていたのは大変気に食わなかったが。







特に何もなく市中見回りを終え屯所へ帰ると山崎に会った。

「あ、お疲れ様です。夕飯控えめにして下さいよー。8時から始まりますから」

母親のような台詞を言う山崎にひと蹴りしてから自分の部屋へ向かった。後ろから何でとか何とか声がしたが気にしないことにした。

宴会の前に風呂でも入るか、沖田は刀を部屋へ置くと着替えを持ち風呂場へ足を運んだ。




風呂には先客がいた。あのハゲ頭は昨日の主役原田か。

「お邪魔しやーす」
「おぉ」

ハゲの上に濡れタオルを置いた頭がこちらを向く。

「誕生日おめでとうございました」
「カッカッカッ!ありがとよ」

豪快に笑う原田。

「この年になっても盛大に誕生日祝ってもらって俺は幸せだ」
「ンなもんかねィ」
「ん?」
「酒が呑めりゃあこじんまりしたもんでも良いや」
「言うねー。未成年」
「あらぁ?良い男が2人も」

そこへ頭にタオルを巻いたオカマ口調の男が入ってきた。

「げ?!武田!俺あーがろっと!」
「あぁー俺入ったばっかだ」
「ちょっ…何よ、アンタ達。別に取って食べやしないわよ」







夜は呑めや食えやのどんちゃん騒ぎ。
前で原田と永倉が漫才をし、隊士達がそれを見て大笑いをしている。斉藤は隅っこの方で一人静かに酒を呑み、藤堂は二木と談笑している。飲み物は烏龍茶。さすがに懲りたようだ。その昨日の飲み比べの対戦者、丘はまた別の隊士と飲み比べている。
井上と武田は他の平隊士と呑み、杉原は山崎と一緒につまみの用意をしていた。

今日も近所から苦情くるだろうな、別に関係ないけど、と杯に残っていた酒をグッと喉に通す。
外の空気でも吸おうかと襖を開けると縁側で煙を吐きながら黒髪の男が座って庭を見ていた。

「何やってるんでィ」
「あ?」

常に瞳孔が開いている目がこちらを向く。

「お前と同じ外の空気を吸ってるんだよ」
「ニコチンの間違いでしょ」

土方の隣に行きそこへ座る。目の前には下からライトアップされた竹があった。

「短冊に何書いたんでィ」
「教えねェ。叶わなくなるだろ」

あれ?どこかで聞いた台詞。

「お前は?」

そうか俺が永倉から聞かれてそう言ったんだ、目の前の男と同じ思考回路なのかと思うとなぜかイラッとした。

「…そこでなぜバズーカ?」
「…何となくでィ」

どこからともなく出したバズーカを撃つ事もなく隣に置く。

「内緒」
「そうか」

別に気にする事もなかったのか土方は適当に流した。

「武州の時は天の川見れたのに江戸に来てからサッパリですねィ」
「あぁ……見る事ができても空気が悪いここじゃあ武州のように綺麗には見れないぞ」
「でも星一個ぐらい見れても」
「あ」

良いのに、と言葉を続けようとした時、土方が声を上げた。

見ると空を見上げている。沖田も見上げるとそこには一つ光を放つ小さな点があった。

「あ…星だ」
「良かったな。願い叶って」
「え」

土方の言葉に目を丸くする沖田。

「何だ、知ってたんですかィ」
「立てている時に見た」
「死ね土方」

隣に置いているバズーカを手に取ろうとした時

「総悟!…って、あれ?トシも?」

鬼嫁を片手に近藤が近づいてくる。

「ちょうど良い!久しぶりに3人で呑むか!」
「えぇー?!それじゃあ約束と違いまさァ」

明らかに嫌そうな顔で抗議する。

「んー…じゃあ代わりに2人で昼食べに行こうか」
「仕方ないですねィ…」

諦めたようにため息をつく沖田。

よし!と持ってきた鬼嫁を置き山崎を呼んで3人分の杯と軽いつまみを持ってこさせた。

「そろそろかなー」

近藤が時計を見ながら呟く。



夜空にはさっきまで一つだけだった小さな光が三つ、四つ増えていた。




「誕生日おめでとう。総悟」




「七夕に星が見れますように」


いや、私の住んでいる地域が毎年毎年曇ってるので…


てゆうか…しまった…
宴中いったい誰が市中見回り行ってるんだorz


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