小説 1

クサノオウ 7

「ヤクザ同士の抗争ですねィ」
「そうだろうな」

沖田と土方の目の前には顔に切り傷の跡が付いた者や晒しを胸に巻いた者、いかにもヤクザ風な男達が体から血を流して倒れている。
スーパーの裏の駐車場に数人の死体が転がっていると通報を受け、近くを見廻っていた一番隊と土方が駆けつけた。

「これなんて骨までぶった斬られてまさァ。相手は素人じゃあなさそうですねィ」

沖田はしゃがみ、死体を覗き込んだ。袈裟に斬られた背中、突かれた胸、中には胴から腑が飛び出している者もおり辺りには血が飛び散っている。

「どこの組の者ですかねィ」
「どこの組の者か…って、お前その世界に詳しいのか?」
「いや、全然」

土方の問いに沖田は首を横に振る。

「大体こんなの普通の地方警察に任せておけば良いんじゃねぇんですかィ?真選組が出てくるほどの事件とは思いやせんねィ」
「こっちに通報が来たんだから仕方ねぇだろ」

この亜麻色の子供には士道も志もなく、ただ暴力だけを振るうヤクザ同士の喧嘩には興味がないらしい。つまらなさそうに欠伸をし、立ち上がる沖田を見て土方は顔を歪め紫煙を吹かす。

そこへ一番隊の隊員がやってきた。

「副長!沖田隊長!お疲れ様です!周辺の聞き込みをおこなったところ、何名かの男の罵声が聞こえようです。次に悲鳴が上がったと。刀が交じり合う金属音は聞こえなかったと言っているので、一方的に斬られたのでしょうね。数名逃げていく様を目撃したという情報もあります」
「おぉ、ご苦労さん」
「土方さん、これの担当どうするんですかィ?」

「もしかして俺?」という感じで自分を指差す沖田に土方は「いや」と首を横に振った。

「どうせやる気ねぇだろ」
「そんな事ありやせんぜィ。俺が片っ端からヤクザの屋敷をバズーカで吹き飛ばしてやりまさァ」
「やめんか」

土方はバズーカを担いだ亜麻色頭を小突いた。

「今、山崎に調べさせている件だってヤクザ関係でしょ?アイツにまかせれば良いんじゃないですかィ?」
「一応この件は伝えておくが、あれはあれで別件の臭いがする。表立った事はお前等がすれば良いんだよ」

土方の言葉を聞き、沖田は不機嫌そうに顔をしかめバズーカを置く。

「確かに俺が裏で動こうとすりゃあ、何故か知りやせんが絶対誰かさんに見つかりやすよー」
「何拗ねてんだ」

自分から顔を背ける沖田を土方は呆れたように溜め息を吐いた。

沖田はちらりと土方を一瞥する。

「ストーカーコンビ」
「はぁ?!」

ボソッと呟いた沖田の言葉に土方の口から煙草がポロリと落ちる。

「神山を加えるとストーカートリオでさァ」
「いやいや、だから何で」
「ストーカー組として真選組から独立しなせィ」

沖田はそう言い捨てて一番隊隊員が集まっている所へ去って行った。

「何なんだアイツは」

もしかして自分がやりたかったのだろうか、悪態を付いた子供の背を見ながら土方は首を傾げた。

麻薬密売という裏商売には少なからずおまけで付いてくるものがある。権力を振りかざして金を集めている奴らだ。

江戸にはヤクザと呼ばれる団体なんぞごまんと存在する。この殺人事件が麻薬密売の件と関連があるなんていう証拠は何もないが、自分なりの正義を守ろうとする子供の耳に何かの繋がりで入るかもしれない。ともかく勝手に突っ込まれたら困るのだ。

(とりあえずコイツ等が何者かを調べなきゃならねぇな)

転がっている死体達を見ながら土方は新たに煙草を取り出し火を付けた。







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