小説 1

クサノオウ 6

山崎は新八から段ボール箱を受け取り屋敷の中に運んで行く。

「すみません。手伝ってもらっちゃって」
「いえいえ、気にしないで下さい」

木クズだらけになった表口に段ボール箱を置き、再びトラックの方へ向かった。
そのトラックの上では神楽が胡座をかいて遠くを見つめており、運転席の横では銀時が紙束を見ながら耳をほじっている。

「ヤクザの組の使用人がこんな腰が低い人とはねぇ」
「ちょっと、銀さんも手伝って下さいよ」

怖くないと分かった途端、態度が一変した銀時を新八は呆れたように白い目で見ている。

「その大きさの割には軽いじゃねーか。何入ってんの?」
「何があっても中身は見るな、って言われてるでしょう?」
「あのぉ…どなたからのお荷物でしょうか?」

山崎はチャンスとばかりに二人に出所を尋ねた。銀時は紙束を見ながら「うーん」と唸る。

「これには書いてないねぇ…宅配を依頼された場所なら分かるけど」
「あ!そこを教えていただけないでしょうか?」
「これがまたそれも言うなって言われているんですよ」

山崎が銀時に向かってメモを取り出して聞いていると、最後の荷物を屋敷内に置いてきた新八がやってきた。

「え、そうなんですか?」
「でも依頼人が受取人は自分の事を言わなくても分かるって言ってたぜ?」
「そういえば…」

銀時と新八が山崎を見る。

確かに、中身が違法物なので極秘に配達するのは当たり前だ。

「おたく、本当にここの人?」

――ギクッ

銀時の言葉に山崎の肩が少し揺れる。

「あ、あぁ、僕は新人なんで…だから留守番なんですね…アハハハ」
「ふーん…」

銀時は納得したのか納得しなかったのか、紙束の中の一枚に何か書きながら適当に相づちを打つ。

山崎がホッと胸を撫でおろしたのも束の間、突如銀時が顔を上げた。まだ何かあるのかと山崎の心臓が再び波打つ。

「ごめん使用人さん。さっきの最後の箱に受取印押してもらわなきゃならねぇんだわ」
「あ、あぁ、はい。サインで良いですか?」
「良いよー。悪いけど急いでくれる?」
「あ、はい」

そんな事か、と山崎は急いで表口まで走った。
後ろで「何、取りに行かせているんですかァァ!!」という新八の叫び声がする。


(組の名前で良いかな)

そう思いながら山崎はペンを取ろうと懐の中に手を入れる。
名前を書いていると後ろから板を退ける音や木クズが踏まれる足音が聞こえてきた。
「すみません」と新八が慌てて近寄ってくる。

「僕達は臨時の配達員でして…何か要領悪くて申し訳ないです」
「いやいや、良いですよ。はい、書きましたよ」
「ありがとうございます」

新八が段ボール箱に貼ってあった紙を取り木クズや割れた木の板だらけの玄関を通り銀時の元へ走って行く。
この散らかり具合どうするかな、と思いながら山崎も後を追った。

「悪いね。はい、これ控え」

銀時が山崎に紙を渡す。

「ご苦労様でした」
「頑張ってねー。使用人さん」

銀時が山崎に手を振りトラックの運転席のドアに手を掛ける。新八が「神楽ちゃーん!」と上にいる桃色を呼んでいた。





山崎は屋敷の敷地内から出て行くトラックを見ながら溜め息を吐く。

結局出所が分からなかったな、と思いながら手元の紙を見た。


「……旦那にはかなわないなぁ…」


あの死んだ魚のような目を欺くにはどうしたら良いのか、住所が書かれた紙を見ながら山崎は頭を掻き、再び溜め息を吐いた。







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