小説 1

クサノオウ 5

麻薬所持だけでも罪にはなるのだが、主犯格の者を捕まえなければ意味がない。

恐らくこの組の本部のような場所にいる頭だとは思う。まずはその場所を特定しなければ。
この屋敷にいる者を捕まえて尋問でもすれば良いのだが、その間に頭が逃げる可能性がある。

やはり出所から掴まなければ…




(つーか…)

山崎は納屋の屋根裏で胡座をかきながら下を見ていた。

その目線の先には少年がテレビを見ている。

考えている事とやってる事が違う自分に対して軽い嫌悪感を抱き、ボリボリと頭を掻いた。


出される食事は時間になると、どこで作られているのか機械が下から持って上がってくる。
今している勉強といえば、本当に人が会話をしている映像だ。たまに少年は言っている事を復唱している。


(麻薬云々よりこっちが気になる)

やはり小さな頃に拉致られてそれを知らずに育てられているとか。そして将来犯罪に手を染めさせて…とか。

うん、十分有り得る。

やはりこれはあの子の為にも副長に相談するべきだな、と山崎は腕を組み一人で頷いた。


「…ん?」

山崎は弾かれたように顔を上げ、窓の外を見る。
車のエンジン音が聞こえた。ここは何もない静かな場所なのでエンジン音がよく響く。

見ると軽トラが庭に止まっていた。


(もしかしてあの…)

麻薬が入った荷物か。屋敷の関係者の振りをすれば出所が分かるかもしれない。

山崎は急いで屋根裏の天井の蓋を開けると先程少年に教えてもらった倉庫に潜入できる床下へと走った。



――ピーンポーン


インターホンの音に急いで町人の恰好に着替えつつ倉庫から玄関へ走った。
折角なので間取りも把握したいが、そんな暇はない。

「なぁ…ここの屋敷って本当にアレなわけ?」
「…あっ…!これ時間帯指定で夕方になってますよ!」
「はぁっ?!アイツんな事言ってなかったじゃねーか!」

聞いた事のある声が耳に入り玄関の戸に掛けようとした手が止まった。
山崎の顔が強ばり汗が流れ落ちる。

「…ほら、やっぱり留守じゃあないんですか?出直しましょうよ」
「二人共退くアル」
「え?」


――え?


バキバキと木が砕ける音がしたと思うと山崎の目前に靴の裏がハマっていた。
顔面に衝撃が走り木クズと共に体が宙を飛ぶ。

「ちょっとォォォ!!!!何やってんのォォォ???!!!」

二人の男の叫び声が聞こえてきた。
戸を蹴破った犯人はトン、と地に降り立ち腰に手を当て倒れている山崎を指差した。

「居たアル」
「居たアル、じゃねーよ!!!この場合居ちゃあダメだろォォ!!!」
「た、確かここってヤクザの組だった筈…」

間違いない、この声、この雰囲気、このやり方は…

ガバッと山崎は上体を起こし辺りを見渡した。

キョトンと目を丸くしているチャイナ服を来た桃色の髪、後ろでに居る眼鏡の少年は逃げようとする銀髪の男の服を掴んでいる。

「だんっ…!!」

咄嗟に山崎は自分の口を両手で抑えた。

「だ、だん…?」
「団子食べたいアルカ?」
「弾丸撃ち込んでやろうかって言ってんじゃないのォ?!」
「あ、あ、あのお届け物…」
「おい!新八!届け物どころじゃねーよ!このままじゃあ俺らがあの世に届けられそうだよっ!」
「オイコラ、何ぼさっとしてるアルカ。荷物を持ってきてやったアル。さっさと立つヨロシ」

二人の男はスパン!と良い音を立て桃色の頭を叩く。

一人の少女を除いて焦りに焦っている人達を見て、山崎はこの任務最大級の脱力感に見舞われた。







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