小説 1

遊んで強くなろう 2

山崎と篠原が道場前に行くともうすでに平隊士が十数人集まっていた。
いつも朝練時に素振りをする少し広い庭に大きな長方形の枠が書かれており、その真ん中に原田が線を引いている。

ミントンのコートのようだ、と山崎は思った。

「んじゃ、ひとまず一番隊チーム、二番隊チームに分かれて…十番隊や他は適当に」

「適当かよ」とざわめく隊士を余所に沖田はボールを地面に突きながらコート内に入る。

「どうする?」

『他』に分類された山崎はコートを指差し、同じく『他』の篠原に聞いた。

「うーん、どういう球技かによりますね。運動能力全般を見れば沖田隊長ですが、判断力を合わせて見ると永倉隊長」
「俺、沖田さんのとこに行こうっと」

この理屈屋め、篠原の台詞が言い終わらる前に山崎は沖田がいるコート内に入った。

隊士全員が二つに分かれ終わり、沖田は自分側に付いた隊士達に向かって言った。

「よぅし、コートの外に三人…あ、外ってあっちだぜィ」

永倉チームに向かって指を差す。

「え?この反対側ですか?」

山崎は不思議そうに首を傾げた。いったいどんな球技なのだろう。

「おぅ、あ、山崎と神山は中な」
「イエッサー!!自分と隊長はいつだって一心同体で」
「返事だけで良いから」
「イエッサー!!」

沖田は鬱陶しそうに顔を歪めた。

あまり表情が変わらない一番隊隊長にこんな顔をさせるのは隊内ではこの男だけだろう、鼻息を荒くして敬礼するぐるぐる眼鏡を見て山崎は思う。

「おーい!もう良いか?!」

永倉が沖田達の方を見て叫んだ。あちらも同じく三人外に出したらしい。外枠の線の向こうに左右一人ずつ、後ろに一人来ていた。

「あぁ!ほら、誰でも良いから早く行けィ」
「あの、何やるんですか?」

適当に三人見繕って外に出す沖田に山崎は怪訝そうに聞いた。ルールがサッパリ分からない。

「中の人にボール当てて、当たったら外、外の人が当てたら中」
「はぁ」
「やれば嫌でも分かるぜィ」

沖田がニヤリと笑う。山崎の他にもルールが分からない隊士がいるらしく頭上に?マークを散らしていた。

「さ、始めるぜィ」

沖田はボールを地面に数回突き手に持つ。

「スーパー総悟魔球くらえ!!」

そう叫ぶと思い切りボールを永倉チームに投げ突けた。
そのネーミングセンスはどうだろう、と山崎は心の中で突っ込む。

「ほい」と原田が勢いよく飛んでくるボールを受け止め鼻で笑った。

「フッ…、さすがに武州の時よりは威力が増したようだが…俺には敵うまい」

「うぉりゃあぁぁ!!!」と叫び声を上げ原田はボールを投げ突けた。

飛んでくるボールが丸ではなく若干楕円形になっている。

沖田側にいる隊士達は「ぎゃあぁ!!」と悲鳴を上げそれを避ける。山崎も「どわぁ!」と声を上げて避けた。真横を通り過ぎたボールが風を切り黒い髪がなびく。

ボールは塀に当たりコンクリートがへこむ。亀裂が入りパラパラと欠片が地面に落ちた。
それを見た沖田は舌打ちをし、顔をしかめる。

「くっ…!さすがに力だけはあるハゲでさァ!!」
「え?あれ当たったら死にません?そういうゲームなんですか?」

山崎は外にいる隊士が慌ててボールを取りに行っているところを指差す。

とりあえず球の投げ合いをするゲームだということは分かった。そしてあの時に輝いていた沖田の目の理由も分かったような気がした。







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