小説 1

遊んで強くなろう 1

(山、沖、原、永、篠)


――誰だ、止めているのは。


山崎は全神経を集中させ目の前を見据えた。

ここで出さなければ全てが終わる。この絶体絶命のピンチ、山崎退どう乗り切るか。

手元にある数枚のカード、この中に切り札はあるのか?――否、ないのだ。この鉄壁を突破できるカードは。どれもある物が出てこない限りこのカード達は表に出ることはない。

「山崎ィ、まだァ?」
「パスはもう使い切ったよなぁ?」

山崎はニヤニヤ笑う沖田と永倉をちらりと一瞥すると「ハァ」と溜め息を吐いた。

「…参りました」
「やりィー」

ご機嫌そうに口笛を吹く沖田を尻目に山崎はガクっと肩を落とし、手元のカードを目の前に並べる。

「何でそこ四枚も持ってるんですか?」

並べられたカードを見た篠原がボソッと呟いた。
「知るか」と山崎は言い放つと再び溜め息を吐いて懐から財布を出す。

「七ならべにまでお金賭けるとか」
「その方がやる気でるだろィ」

ブツブツと文句を言いながら財布の中を見る山崎に沖田は手持ちのカードを見ながら言った。

最終的に手元に残った枚数で出す金を決める。一枚百円。

「えぇと…六枚残ってたから…六百円かぁ。各自お釣り四百円用意して下さい」

山崎は財布からを札を四枚取り出すと一枚ずつ配った。永倉は「えぇ」と顔をしかめ自分の財布を取り出す。

「釣りいんの?ケチ」
「四百円ぐれぇまけろィ」
「何言ってんですか二人とも、俺より給料もらっといて」

嫌がる沖田の前に手を出し催促をする。目は真剣そのもの。渋々沖田も財布を取り出した。

「じゃあ俺はいいですか?山崎さんよりもらってな」
「寝言は寝てから言え」

山崎は永倉と沖田から小銭を回収しつつ篠原を睨む。六百円×四=二千四百円。痛すぎる出費だ。

「原田も、ほら」

先程から黙っているハゲ頭にも忘れずに催促をする。原田は真剣に手元のカードを見据えていたが山崎に声を掛けられ弾かれたように顔を上げた。

「あ、あぁ」

あれは鉄壁の先『ハートの5』を持ってるな。表情でまる分かりだ、山崎は慌てて財布を出す原田を見て思った。

「チビ、ここ止めてねぇかィ?止めるのは身長だけにしときなせィ」
「あぁ?!俺じゃない…って、今何て言ったァ!!」
「ストーップ!」

山崎はゲームが始まって何回目かの永倉の抜刀を止めに入る。その横で篠原は素知らぬ顔で何の当たり障りのないカードを出していた。






「いつまで拗ねているんですか」
「…」

山崎は隣で不貞寝している沖田を見て溜め息を吐く。

沖田は鉄壁を守りすぎたか山崎の次に負け、本人はそれが気に食わなかったようだ。どこまで子供みたいな人なんだ、山崎は真選組随一の剣の腕を持つ亜麻色頭を見る。

「次何します?」

一番最初に上がった上機嫌の篠原がトランプを片付けながら尋ねてきた。沖田はゴロリと仰向けに転がり人差し指を上に突き出す。

「真剣勝負」
「却下ァァ!!!」

山崎は精一杯拒否をする。篠原はそんな沖田を一瞥し「フッ」と鼻で笑った。

「力で相手を負かすのではなく、頭脳で負かさなくては。これからの時代は剣の腕だけではなく学問にも長けている人が必要となってくると伊東先生が」
「はいはい」

篠原が伊東の事を話し出すと長い。沖田と山崎はウンザリと言った顔で篠原を見た。


「次これやろうぜー」

縁側から声がした。
開いている襖から原田と永倉がニヤニヤと笑いながら山崎達を見ている。
山崎は原田がボールを持っている事に気づき「ん?」と首を傾げた。

「ボール遊び?」
「武州に居た頃やってたやつ。沖田知ってるだろ?」

ニヤリと笑う原田を見た沖田はガバッと勢いよく起き上がった。側にいた山崎が「わぁ!」と声を上げる。目が輝いているのは気のせいか。

「やる!」
「暇してる奴等呼びに行こうぜ!」

原田が手招きをすると沖田は意気揚々と立ち上がって二人の元へ急いだ。

「篠原と山崎も道場前に集合な」

永倉は呆然としている二人に呼びかけると原田、沖田と共に去っていった。







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