小説 1

クサノオウ 3

「ヨットラックから屋敷に荷物が運ばれていまし鯛。イカずは大体十数箱ですいか。紙ている限りだと一人で持ち運びしていましたし、重くはなさそうだったので武器ではないと思いますき焼き」
「……中身は見たのか?」
「黄色いえ、見てないですずめ」

土方が顔をしかめ山崎を見据える。「見ていない」という言葉に顔をしかめたのではなく山崎が報告をし始めた時から土方の眉間にはしわが寄っていた。

「二日間でそれだけか。お前にしては少なすぎるんじゃねぇのか?」
「めもうし訳ありません…あっ!ん付いちゃった」
「なぁぁにが付いちゃった、だあァァァ!!!!」

山崎の台詞に何かが爆発したかのように青筋を浮かべた土方は抜刀し片膝を立てる。山崎は「ひぃ!」と声を上げ器用に正座のまま後退った。

「何なんだ?!その言葉はっ?!お通語が進化してしりとり語になったのか?!聞き取りにくい事この上ないわァァァ!!!!」
「あ、いや、その」
「しりとり語を直すまで帰ってくるなァァ!!!」
「はいィィッ!!!!」

山崎は瞬時に立ち上がり敬礼すると、慌てて副長室を出て行った。
青筋を浮かべたまま土方は刀を納め傍らに置く。側で胡座をかいて聞いていた沖田が立ち上がり、開けっ放しの襖を見ながら近付いてきた。

「普通は何か掴んでこいじゃねぇんです火山に落ちて死ね土方。樽の中で死りとり語なんてどこで教えてもらったんでしょうかねば良いのに土方」
「何さらに進化させてんだバカ」

沖田の方を見ず灰皿に煙草を押しつける。

数日前にある団体が大量の麻薬をどこかで栽培し売りさばいている、という情報を掴む。その裏を取る為、いつも通り山崎に行かせたら言葉使いがおかしくなって帰ってきた。意味が分からない。

土方はこめかみを拳で押さえ溜め息を吐いた。

「最近のヤクザ団体は派閥争いが激しいらしいですぜィ」
「派閥?」
「えぇ、どっちが偉いだの凄いだの…くだらないでさァ」

沖田は背伸びをし、欠伸をしながら開けっ放しの襖へと歩き出した。

「派閥ねぇ…」

ヤクザの意地の張り合いなんぞどうでも良いが、麻薬云々は放って置くわけにはいかない。
地味な監察が証拠を掴むまで待つか、と土方は新たな煙草を懐から取り出した。


「ちゃーっす!宅急便でぇーっす!!」

突如、表口の方から聞きたくもない声が聞こえてきた。土方の顔が自然と歪む。

「おぉーい!!誰かいないのかコノヤロー。ハンコ早よ押せよ税金泥棒ォー」

山崎はもう行ったのか、土方は取り出した煙草を再び懐へ入れ、立ち上がって表口の方へ歩いていった。



「なんだ、居るじゃねーか。マヨ大王が」

表では頭に帽子を被っている銀時が荷物を片手に鼻をほじっていた。

どうせまた万事屋関係でバイトか何かだろう、なぜそんな事をしているのか気にはせずに土方は面倒臭そうに溜め息を吐く。


「誰がマヨ大王だ。ハンコやるからとっとと帰れ」

土方は荷物に貼ってある受取印のところにハンコを押す。
誰宛てだろうか、受取人の名前を見ると『沖田総悟』と書かれてあった。差出人は通信販売会社の社名、嫌な予感しかしない。

「へいへい、まいどー」
「って、こら、待てボケ。荷物置いていけ」

青筋を立てた土方は荷物を持ったまま背を向けて立ち去ろうとした銀時の肩を掴む。

「あ?ハンコもらったからとっとと帰るの。荷物までやるなんて言ってねー」
「なぁに屁理屈こねてんだ糖分天パ。宅急便の仕事分かってんのか?」

火花を散らし睨み合う二人の所へ眼鏡を掛けた黒髪の少年がやってきた。

「ちょっと、銀さん。次は遠い場所に配達しなきゃいけないんですから早く行きましょうよ」
「あ、新八。この人ひどいのよ。私を帰さないんですって」
「早く荷物置いて帰れ」







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