小説 1

手土産は和菓子で

(沖、銀)


「ストーカーと掛けまして腐れ縁と解きます」
「その心はっ?!」
「切っても切れない」
「なぁる」

銀時は頷きながらケーキに乗っているイチゴをフォークで刺す。目の前にいる沖田はオレンジジュースが入ったコップを手に取った。


――カタカタカタ…


ケーキを乗せている皿が小刻みに震える。机の上に置かれていた携帯電話が暴れ出した。

「携帯電話と掛けまして鬼ごっこと解きます」
「その心はっ?!」
「何処にいようと捕まえる」
「ほほぉ」

震える皿を片手で押さえイチゴを口に運んだ。携帯電話は「プルル…」と音を出しながら机の上を小刻みに移動している。

「…出ないの?」
「タンスの底にある服と掛けまして坂田銀時と解きます」
「その心はっ?!」
「曲があって大変」
「あぁー髪の事ですか、そうですか」
「性格もでさァ」
「お前程じゃねーよ」

携帯電話が机の上から落ちる寸前で止まった。銀時は口の中のイチゴが無くなると溜め息を吐く。

「…で、どうしたの?わざわざ万事屋までなぞかけを披露しに来ただけ?」
「…」

沖田は無言で空になったコップを置き、携帯電話を手に取って開いた。液晶画面を見る顔は至って無表情。

「謹慎食らいやした」
「あらら、ご愁傷様」

これは抜け出してきたな、銀時は携帯電話を再び机の上に置いた沖田を見て思う。服装はいつもの黒い隊服じゃなくて私服。
沖田は頭の後ろで手を組み天井を見上げ大欠伸をした。

犬猿の仲の神楽が志村家に遊びに行っていて良かった、そうでなくては今頃壁に穴が空いていただろう、沖田が持ってきたケーキを一口大に切って口に入れる。

「何しでかしたの?」
「天人の家に遊びに行っただけでさァ」
「あぁ…それはきっと手土産がダメだったんだわ」
「爆弾と刀じゃあダメでしたかィ」
「甘味か煎餅にしなさい」

そう言い銀時は最後の一切れをフォークで刺そうとした。
――カツン、金属と陶器がぶつかる音がする。前を見ると沖田が手に付いた生クリームを舐めながら顔をしかめていた。

「…まさかバレるとはねィ」
「あぁ!!一番クリームが乗っている所をォ!!」
「麻薬密売、人身売買、不法賭事、人間にやらせて自分等は売り上げた金で豪遊。あぁーあ、後もうちょっとだったのにさァ」
「銀さんの後もうちょっとのケーキが…」

口の端っこに生クリームを付け溜め息を吐く沖田の前で銀時は肩を落とす。フォークを皿の上に置き、目の前の亜麻色を見据えた。

「謹慎で済んで良かったじゃん。でもいい加減にしておかないと落語家に転職する羽目になるぜ?」
「江戸の落語侍、沖田総悟見参!」

沖田は腰に手をやり「あ」と声を出した。

「刀没収されてるんだった」
「それでよく抜け出そうと思ったな」

それはさぞかし心配しているだろう、銀時は先程掛けてきた電話相手を哀れに思った。

「何か動いてなきゃ気ぃ済まなくてさァ…ねぇ、旦那」
「ん」
「護るってぇ事は、ほんと難しいでさァ」

沖田は携帯電話を持って立ち上がり背伸びをする。

「んじゃ、お邪魔しました」
「沖田君」
「?」

携帯電話を懐に入れながら「何ですかィ」と、銀髪を見た。

「侍と掛けまして薬の処方と解きます」
「…その心は?」
「士道を護る(指導を守る)」

一瞬目を丸くした沖田だったが、すぐニヤリと笑いケーキが入っていた箱を指さした。

「そのケーキを買った甘味処の向かい側が例の天人の屋敷でさァ。手土産買っておいてくだせィ」
「…ん?」

次は銀時の方が目を丸くし箱を見る。そこには住所と店名が記されてあった。


「先に行っときやす」

沖田は手を振り、背を向けて玄関へと歩き出す。銀時は「ハァ?!」と声を出し立ち上がった。

「ちょっ…沖田君、マジ?強引すぎない?それ」

すると沖田は玄関前でくるりと回れ右をし、人差し指を立てて前に出す。

「謹慎中と掛けまして命令違反と解きます」
「そ、その心は」
「バレなきゃいい」
「そのまんまじゃねーかァァァ!!!!」




ウチの沖田君はこんな困った子。

ほのぼのと言うよりほのぼの風味?


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