小説 1

アナタがいないなんて有り得ない12

「…今日は仮装パーティの日だったかしら」

建物の陰で隠れていたマヨネーズ姿の土方を見て武田が呟く。近藤が立ち上がり武田の方を向いた。

「おぉ、武田。ご苦労さん」
「うるさい。連れて来たか?」
「来たわよ」

武田が後ろを向き手招きをする。すると白髪の老人がゆっくりと姿を現した。

数分前、土方の携帯に夜勤中の武田から「屯所に行きたいっていう人がいる」という連絡が入る。山崎が呼んだ霊媒師だ。

「夜分すみません。御老人……ん?」

しゃがんでいた山崎が立ち上がる。これでやっと解決する、と五人は思った――が、

「…ぐぅ…」
「寝とんかい!!」

青筋を立て山崎がどこからか出してきたハリセンでスパーン!と立ったまま寝ている老人の頭を叩いた。

「今は深夜2時よ。無理もないわよ…で、これは何事?」

武田はマヨネーズと泡だらけの屯所内を見渡す。沖田は困った顔をし武田を見上げた。

「土方さんが昔捨てた恋人が暴れてるんでさァ」
「違うわァァァ!!!!」

土方は立ち上がり山崎からハリセンを奪って亜麻色頭を叩く。武田は「あら」と目を丸くして土方を見た。

「恋人ってあの髪型が銀杏髷の方?」
「だから違うって……え?」

武田が指を差す方を見ると銀杏髷の男がペタペタとクリーム色の足跡を付けながら縁側を歩いていた。それを見た武田は目を丸くして「え」と口元に手を当てる。

「よく見たら何か透けてない?幽霊?」
「そうなんでさァ。土方さんに捨てられた事を苦に自ら命を絶っ」

沖田が最後まで言い終わる前に再び土方がハリセンで叩く。

「面白そうね。また朝に話聞かせてちょうだい」

「バァーイ」と手を振り去っていく武田を見て土方は「誤解したまま行ってないか、アイツ」と呟いた。


五人はとりあえずそっと銀杏髷の男に気付かれないよう近くにあった部屋へ逃げ込む。原田が老人を抱え込み、最後に入ってきた山崎が静かに襖を閉めた。
土方が部屋を見渡す。

「…この部屋の主はどこへ行った?八番隊は夜勤ではなかった筈だが」
「どうせ遊郭でしょ。おぉーい!爺さぁん!!」

原田が老人を下ろし耳元で大声で叫んだ。
「…あぁ?」と声を出し老人の瞼が開く。山崎が「あ」と言い老人に近付いた。

「霊媒師の方ですよね?真選組です」
「おぉー…着いたか」

起き上がり背伸びをする老人に原田は「タクシーかよ」と呟く。

「実はですね…」





「ふむ。なるほど。恐らくマヨネーズの事を余程恨んでおるのじゃろ」

山崎から事情を聞いた霊媒師が顎髭を撫でる。

「まぁ…それは大方予想は付くが」
「だからその格好は命取りじゃよ」

未だマヨネーズ姿の土方を指差した。

「…何だ、土方さん。実はそれ気に入ってるんですかィ?」
「…着替えるタイミングがなかっただけだ」

土方は白い目で見てくる沖田に背を向け着替え始めた。

「それで其奴はどこに?」
「あぁ、縁側に」

そう霊媒師に向かって着物の帯を締めていた土方が言い掛けたその時、


「あ゛ぁ゛っ!!!」
「出たァァァ!!!」

襖の戸が蹴破られ銀杏髷の男が現れ、山崎と原田が叫び後方へ飛ぶ。銀杏髷の男を見た霊媒師が「ん?」と首を傾げた。

「おぉ!幸之助じゃないか!!」
「え?」

五人一斉に霊媒師を見た。山崎が銀杏髷の男を指さしながら問う。

「知り合いですか?」
「あぁ、息子だ」


一瞬空気が凍る。


「えぇー??!!」







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