小説 1

アナタがいないなんて有り得ない11

ある冬の夜、江戸の平和を守る真選組を恐怖のどん底に陥れた男がいた。

奴は掴むもの全てをマヨネーズと化し屯所内を所狭しと暴れまくった。
実体は無く攻撃しようとしても所詮幽体、効く筈はない。真選組の者達は成す術もなく、ただ空の洗剤容器を持って途方に暮れていた。

皆が諦め、白いタオル代わりに空の洗剤容器を宙に放り出そうとしたその時――


小さな雪が舞う闇夜の中に一人の勇気ある戦士がそれを止める。

皆は驚きその戦士を見た。暗闇の中、赤い頭がやけに目立つ。


見た目はマヨネーズ、頭脳はマヨラー、その名は、


愛のマヨ戦士トッシー



トッシーは煙草を手に紫煙を揺らしながら男に近付いた。

「おい」

男が振り向く。

「あの世にも行かず現世に留まるほどの理由聞こうじゃねぇか。何か手伝える事があれば何でもするぜ?」

トッシーは紫煙を吐きニヤリと笑った。


皆は祈るようにトッシーを見つめた。



真選組を救えるのはもうお前しかいない!


頼むぞ!トッシー!


真のマヨネーズの力、見せてやれ!


男はゆっくりとトッシーに近付く。

その目からはマヨネーズが溢れ、頬に一筋のクリーム色の道を作った。


まるで涙のようだ。
同じマヨラー仲間であるトッシーの言葉が男の心に突き刺さったのか。



ここに居た誰もがそう思った。




――だが、世の中は誕生日ケーキなどの上に付いている砂糖の固まりの人形をチョコレートかと思って丸かじりした時のようには甘くはない。

むしろバニラエッセンスの匂いに騙され、ひと舐めした時のように苦いものなのだ。


その男の目はつり上がり、歯を食いしばりながらトッシーを睨み据えた。





「なぁ」
「何ですかィ?土方さん」

銀杏髷の男を見据えながら土方は隣でしゃがんで見ていた沖田に声をかけた。

「最初のアホのような出だしの割には憎悪丸出しじゃね?アイツ」
「今の土方さんの格好も十分アホのようですが」
「お前がさせたんだろうが」

土方は膝を抱え自分を見上げている沖田を睨む。

「仲間ですから大丈夫でさァ。トッシー」
「いやいや、どう見たって場の雰囲気変わったぜ?後トッシー言うな」

近付いてくる男の目は敵意剥き出しで、今にも土方に飛びかかりそうだった。

二人の後ろでは原田が再び田云頁を取り出し山崎と「24時間営業の霊媒師は…」と言いながら見ている。

「あれ?もしかして逆効果?」

腰に手を当て髪をボリボリと掻きながら近藤は首を傾げる。沖田は立ち上がり近藤の方を向いた。

「近藤さん、そのようでさァ。かくなる上は土方さんを生け贄にしてあの世へ還ってもらいやしょうや」
「オイ、コラ」

土方は青筋を浮かべ沖田の方を向いた――その時、


「あ゛ぁ゛ぁー!!!」
「!!」

銀杏髷の男がマヨネーズをまき散らしながら土方に飛びついてきた。土方は咄嗟に身を開いて避ける。

「ほら!見てみろ!!着ぐるみ着た意味ねぇじゃねーか!!」
「ただ土方さんの醜態を晒しただけになりやしたねィ」
「殺すぞコラァ!!」
「全軍一時撤退っ!!」

近藤と沖田が先に逃げ怒鳴りながら土方が続く。田云頁を見ていた山崎と原田も身の危険を感じ再び屯所内を走り出した。

「霊媒師は?!」

土方はマヨネーズの姿のまま山崎に向かって叫ぶ。

「今呼んでますぅ!!」

山崎は携帯電話を片手に原田の手にある田云頁を見ながら叫んだ。

「初めからこうしたら良かったんじゃねーかァァ!!!」

屯所内に土方の怒鳴り声が響き渡った。







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