小説 1

アナタがいないなんて有り得ない10

屯所中は泡とマヨネーズにまみれ、中庭では銀杏髷の男が彷徨いている。隊士達はもう各部屋に逃げており男以外は誰もいなくなっていた。

バズーカによって空いた襖の穴から沖田が中庭を覗く。

「…何でずっと屯所にいるんでィ。やっぱ土方さんを迎えに来たんじゃねぇんですかィ?」

溜め息を吐き土方の方を向いた。

「バカ。相手が幽霊だったらあの世からの迎えじゃねーか」
「尚更万々歳でィ」
「こんの…」

土方は青筋を立て沖田を睨んだ。沖田と一緒に中庭を見ていた原田が「うーん」と唸り首を捻る。

「霊媒師呼ぶか?」
「こんな夜中に捕まるかなぁ?」

山崎が頬をポリポリと掻きながら原田を見る。すると原田は‘田云頁’と書かれた一冊の本を取り出し「こいつで調べれば…」と頁をめくり始めた。

「いや、幽霊も訳あって成仏できずにいるのだろう。一度事情を聞いてみたらどうだ?」
「誰が?」

人差し指を前に出して言う近藤に土方が間を入れず問う。

「そりゃあ」
「仲間の方が良いでしょう」

近藤が土方の方を見て言い掛けた台詞を沖田が遮った。土方は顔をしかめる。

「仲間?」

沖田は無言で土方を指差した。田云頁を見ていた山崎と原田も土方を見る。

「……マヨネーズだけで判断してねぇか?それ」
「それ以外の判断材料が見つかりませんねィ」
「時には話し合いで解決するやり方も必要だぞ、トシ」

近藤は腕を組みうんうんと頷く。これでもかという程、顔を歪め嫌そうにする土方の肩を沖田が叩いた。

「大丈夫ですぜィ。土方さんはもうすでにマヨネーズの固まりじゃないですかィ。今更アイツもマヨネーズにしないでしょ」
「オイ」
「さらに仲間だっていう信憑性を高める為にこんな懐かしのブツも出してきやした」

沖田はどこからともなくマヨネーズの着ぐるみを取り出した。

「そんなもんどこから」
「これでバッチリですぜィ」

ビシッと親指を立てる沖田に土方は青筋を浮かべ眉をピクピクとひきつらせる。

「トシ、お前にしか出来ない仕事だ。真選組の命運がかかっている。頼む!」

近藤に頭を下げられ土方は苦々しげに溜め息を吐く。原田は見ていた田云頁を閉じ組んだ足に頬杖をついた。

「もしかしたらマヨネーズが消失した原因も分かるかもしれねぇですし。副長、これはもうやるしかねぇ」
「もうマヨネーズは嫌です。クリーム色なんて見たくない、痛っ!!」

土方は他人事のように言う原田より山崎に苛ついたのか黒髪の頭を殴り、マヨネーズの着ぐるみを手に取った。

「マジかよ…」







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