小説 1

アナタがいないなんて有り得ない8

「さっきの爆発音は何?!夜襲?!」

杉原が刀を持って部屋の襖を開け叫ぶ。
バズーカの音で就寝中だった隊士達が次々に何だ何だ、と部屋から出てきた。

「杉原!あれ!あれ!」

後ろを指差しながら沖田が杉原の目の前を電光石火の如く過ぎ去っていく。

「攘夷浪士の方がマシだァァ!!」

続いて原田が叫びながら走り過ぎていった。

「…?」

杉原が怪訝そうに顔を歪め沖田が指差した方を見る。そこには銀杏髷頭の男が両手にそれぞれ全身マヨネーズに覆われ気絶している隊士を引きずりながらこちらへ向かってくる様だった。

スパン!と勢いよく自室の襖を閉める。


「…寝よ。夢だ、これは夢」

そう呟きながら杉原は布団に潜り込んでいった。



「おぉー!次々とマヨネーズにされてらァ」
「俺はごめんだ!マヨネーズで窒息死なんて絶対ごめんだ!!」

柱の陰に隠れ沖田と原田は今起こっている惨状を見ていた。
銀杏髷の男がマヨネーズをまき散らしながら隊士の体の一部を掴む。するとその隊士は見る見るうちにマヨネーズに覆われ倒れていった。

「にしても、土方さんは出て来やせんねェ。マヨネーズまみれになれるなんてあの人にとっちゃあ夢のような話じゃねぇのかねィ」

屯所中大混乱の中、沖田は副長室を見た。襖は閉め切っており土方が出てくる気配はない。

「何やってんだ、副長。このままじゃあ真選組がマヨネーズに支配され…!!」
「!!」

二人の目の前に突如例の銀杏髷の男が現れた。相手は幽霊、二人とも霊感なんて皆無だからか気配なんて感じられなかった。
男は両手を前に出しマヨネーズを垂らしながら二人に目掛けて振り下ろそうと両腕を挙げた。


「神山ァァァ!!!!」

沖田がどこに向かってか叫ぶ。すると瞬時にぐるぐる眼鏡が敬礼した姿で現れた。

「イエッサー!!!」
「盾になって」
「喜んでっ!!!」

二人と男の間に神山が両手を広げて立つ。
その顔はどこか誇らしげで輝いていた。

「ずらかるぜィ」

沖田と原田はその透きを見て走り出した。


「すげぇな。惚れそうだ」
「やる」
「あ、ごめん、いらね」



沖田と原田が土方を呼ぼうと副長室の前に着いた時、局長室から近藤が屯所内に響き渡る悲鳴を聞き慌てて出てきた。

「え?!何?!これ?!何でマヨネーズだらけ?!屯所がマヨネーズ王国に支配されたのか?」
「近藤さん、本当にそうなりそうですぜィ」
「えぇっ?!」

肩を竦ませる沖田を見て、近藤は驚愕し目を見開いて叫ぶ。
原田が副長室の方を向き「副長ォー!」と呼んだ。しかし返事がない。

「…あれ?」
「とうとう王国に行っちゃいましたかィ?」
「ん?トシ、いないのか?開けるぞ」

近藤が襖に手を掛けたその時、

「雪降る夜は戸開けるべからずっ!!」
「えっ?!はぁ?!」

襖の向こうから土方の叫び声が聞こえた。近藤は吃驚して襖から手を離す。
沖田と原田は無言で襖を見つめていた。


「足が無くなるぞっ!男と女が連鎖して足を砕きやがるんだ!!近藤さん!!」
「え!ウソっ?!出ちゃった!!外雪降ってるのに出ちゃった!!総悟どうしよう?!」

土方の言葉に近藤は慌てふためき沖田の肩を掴んで揺らす。
沖田は無言でバズーカを副長室に向け弾を発射させた。







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