小説 1

アナタがいないなんて有り得ない7

不気味な声の主は亜麻色の頭を掻き首を傾げながら二人を見下ろしている。

「昼間あんなにマヨネーズ、マヨネーズ言ってたからさァ…いつも通り寝る時に斬った土方さんの体数えてたら段々噴き出す血がマヨネーズに変わっちまって…それで寝れなくなったんでィ」

困った表情で沖田は溜め息を吐いた。永倉は立ち上がって自分を脅した犯人を睨みマイクを指差した。

「それでわざわざ変声マイクを通して脅しにきたのかよ」

沖田は悪びれた様子もなく「これ?」とマイクを指差した。

「本当は土方さんの所へ行こうと思ってたんでィ。そしたらちょうど良いところに実験体が」
「こん…のやろ…」

青筋を立てる永倉に原田が「まぁ、まぁ」と頭を軽く叩きながらなだめる。そして沖田の方を向きマイクを奪い取った。

「もう副長は十分ビビってんだろ。何も追い打ちかけんでも」
「この弱ってる時がチャンスでィ。一気に畳みかけて攻撃し、副長の座をゲットだぜィ!」

原田の言葉に沖田はどこからともなく出したバズーカを構える。永倉は「元気だねぇ」と呟くとブルッと身震いをした。

「寒っ!…俺は今度こそ寝る。はしゃぎすぎて風邪引くなよー」

ひらひらと手を振り「おやすみー」と言いながら去って行った。

屯所の外では雪が先ほどより少し多くなっている。沖田は「積もるかねィ」と呟いた。

「俺も寝る。山崎も先に寝ちまった事だし」

原田は倒れている山崎の襟首を掴むとズルズルと引きずりながら歩き出した――その時、


「マヨネーズが3125本…マヨネーズが3126本…」


再び聞いたことのない声が聞こえてきた。原田はまたか、と顔をしかめ沖田の方を見る。

「オイ、沖田。いい加減に」
「俺、何も言ってないぜィ?」

沖田は目を大きく開け、両手を肩の上辺りまで持っていき手を振った。原田は「そういえば」と手に持っていたマイクを見つめ呟く。

「じゃあ誰が…」


「マヨネーズが3128本…マヨネーズが3130本…マヨネーズが3148本…」


声が段々大きくなる。
原田と沖田は怪訝な表情で周りを見渡した。


「マヨネーズが3265本…マヨネーズが3842本…マヨネーズが4124本…」


「あー…これってまさか…」

寒い中にも関わらず原田のハゲ頭から脂汗が浮き出てきた。


「マヨネーズが5986本マヨネーズが7156本マヨネーズが9813本マヨネーズが10632本あ゛ーッッ!!!!」
「!!」

突如、中庭から銀杏髷の男が現れた。縁側に手をクリーム色の液体と共にベチャリと置く。ギロリと二人を睨んだ目は瞳孔が開ききっており、そこから涙のようにマヨネーズが流れていた。


「そのまさかでさァ!」

沖田は銀杏髷の男にバズーカを向け狙いを定めて引き金を引いた。
しかし弾は男をすり抜け中庭に落下、爆発音と白煙を立てながら地面に大穴を空ける。
沖田と原田は顔を見合わせた。

「…やっぱり」
「お化け?」

銀杏髷の男は手を伸ばし気絶している山崎の足を掴んだ。
咄嗟に原田は掴んでいた山崎の襟首を離し回れ右をして沖田と共に走り出す。

「実体がないくせに実体があるものを掴めるなんて卑怯でさァ」
「くっ…山崎…!お前の犠牲は無駄にはせん!!」

二人は振り向きもせず全力疾走で銀杏髷頭の男から逃げた。







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