小説 1

アナタがいないなんて有り得ない4

工場に行く際、車内で小競り合いをしていた所為か帰る際にはもう日が落ちかけていた。

「犯人なんてどうやって捕まえるんでさァ」

若干震度が大きくなった車内で沖田は頭の後ろで腕を組みながら助手席を見た。土方は前を見据え体を揺らしている。

「フン。ソース王国の奴等は腹黒いからな。いつも俺の上に乗りやがってとか思っていたのだろう。お好み焼きが良い例だ。ケチャップ王国の奴等も同じだ。何で俺じゃなくいつもあのクリーム色なんだと嫉妬」
「もう真選組の副長を辞めてマヨネーズ王国の大臣にでもなってくだせィ」

抜刀しようとした沖田の手を咄嗟に山崎が押さえた。苦々しい顔をした原田が片手でハンドルを持ちハゲ頭を掻く。

「機械なんて一晩で盗めるもんじゃねぇだろ。それに現に俺らの目の前でマヨネーズが消えたんだぜ?」
「どんな手を使ったんでしょうかね?見当も付かない」

沖田から手を離した山崎は怪訝そうに「うーん」と唸る。一方、不機嫌極まりない土方は貧乏揺すりに加えマヨライターの火をつけたり消したりと落ち着きがない。そんな助手席の男を見て沖田は溜め息を吐いた。

「アル中のオッサンが禁酒しているようでさァ。もしこの先一生マヨ無し生活だったらどうするんでィ」

その沖田の言葉に土方の動きがピタリと止まった。ギロリと沖田を睨む。

「‘もし’何て言うそんな仮定はいらねぇ。絶対犯人を見つけて斬る。斬って全てのマヨネーズを取り返す!」

土方はマヨライターを懐に入れる。決意を新たにする土方を見て山崎は溜め息が出た。

「副長、その犯人の目星が全く付かな」


――キィィーッ!!!!

「!!」

タイヤが地面に擦れる音が鳴り、車が急停止した。運転手の原田以外の三人は声を上げつんのめる。

「原田ァ!!」
「ちょっ…安全運転で頼みまさァ」

土方は隣を向いて怒鳴り、沖田は運転席の背もたれを持って原田の顔を覗き込んだ。

「あいたた…頭打った…どうしたの?」

山崎も頭を撫でながら運転席を見た。原田は驚いた表情で前を見据えている。

「…あー…すまん、すまん。人がいきなり出てきたもんだから」
「人?」

原田の言葉に三人は前を見た。車二台がギリギリ通れるような道の周りにはポツリ、ポツリと民家がある。辺りは薄暗くなってきており二、三件の家の窓には明かりが灯っていた。

「…いないし」

山崎がボソッと呟く。

「えーっ!!いやいや、居たって!!」

原田はそう叫ぶとシートベルトを外し車から降りていった。三人は顔を見合わせ「?」と首を傾げつつ車から降りる。

先に降りた原田は周りを見渡しながらハゲ頭を掻いた。四人以外誰も見あたらない。

「あれ?!っかしいなぁ…」
「オイオイ…土方さんに続いて原田まで頭いかれちまったのかィ?」
「あぁっ?!」

腰に手を当て怪訝そうな顔をする沖田に土方は青筋を立てる。軽く周りを見てきた山崎も首を傾げ原田を見た。

「動物か何かだったんじゃない?」
「いやいや、男だった。銀杏髷で町人のような」

原田は顎に手を当てて首を横に振る。フーと紫煙を吐き土方は顔を歪めると助手席のドアに手を掛けた。

「ぶつからなかったんなら良いだろ。帰るぞ」
「あ」

車にもたれていた沖田が声を出し指を差す。他の三人がその方を見てみると少し離れたところに一人の男性が立っていた。
原田の言っていた通り、銀杏髷頭の男性が四人を見つめていた。全体的に白っぽく体が透き通っている。

「…あ、あれって…もしや…」

後退る山崎の声が震えている。四人が凝視する中、男性はゆっくりと近付いてきた。


「あ゛ーーー」
「!!!」

男性が低い声を上げた途端、体中の穴という穴からクリーム色の液体が勢いよく噴き出す。そのまま四人に向かってクリーム色の液体をまき散らしながら飛んで来た。

「ぎゃああァァァ!!!!」

四人は悲鳴を上げ光の速さで車に乗り込んだ。

「土方さん!!ほらっ!!マヨネーズ王国からのお迎えですぜィ!!あの人はきっと王国からの使者ですって!!」
「ババババババカッ!!おおおお前っ!あのクリーム色がマヨネーズだと思ってるだろっ!!!あれがマヨネーズなもんかァァァ!!!あれはカスタードクリームだっ!!アイツはシュークリームか何かなんだっ!!!」

土方は車の外に押し出そうとする沖田を必死に押し返す。山崎は後部座席の隅でガタガタと震えていた。

「もう別に何でも良いわァァァ!!!!」

原田は叫び猛スピードで屯所へとパトカーを走らせた。







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