小説 1

アナタがいないなんて有り得ない3

――カタカタカタ…

弱い地震のような揺れが起きている……のはこの車内だけ。
運転席の原田はたまに隣を一瞥しては溜め息を吐き、後部座席の山崎と沖田は居心地が悪そうに震源地を見つめていた。

「…土方さん、貧乏揺すり止めてくだせェ」

三半規管が弱い者ならもうすでに胃の中の物をリバースしているだろう。沖田は腕を組み顔をしかめながら土方を睨む。

「あの…大丈夫ですか?」

無言で体ばかり揺らしている土方を見て山崎は逆に心配になってきた。あの黄色い物体にどれほどの中毒性があるというのか。

「マヨ断ちの良い機会じゃないですかィ。これを機に止めたら」

沖田の言葉を遮るように目前を白刃が通る。「ひぃっ!」と隣に居た山崎が悲鳴を出し両手を挙げた。助手席の土方がいつの間にか抜刀して後部座席に刀を突き刺してきたようだ。

「マヨネーズを断つという事は己の命を己で断つ事を意味する」
「その前に俺が断たせてやりまさァ」
「こんなところでバズーカの使用は止めてェェ!!!」

土方にバズーカを向ける沖田を山崎が慌てて止めに入った。

「大体、マヨネーズの多量摂取は高カロリー高コレステロールですぜィ。只でさえニコチンだらけの体なくせに…不健康にも程がありまさァ」

バズーカを押さえていた山崎が「え」と驚き声を上げた。もしかして副長の体を心配しているのか、と目を見張る。土方も口に持っていこうとした煙草が止まり沖田を見た。

「お、何だ沖田。副長の体を気遣う言葉なんて珍しいな」

原田がバックミラー越しに沖田を見ながら言う。すると沖田はバズーカを下ろし後部座席に刺さった刀の柄に手を掛けた。

「だって、土方さんの首斬ったらニコチンが飛散し、マヨネーズが噴き出すだなんて気持ち悪ィ。何なら今の状態でどうなるか試そうかィ?」

そう言い沖田は刀を抜き取ると助手席の土方の首元に向かって剣尖を横に振る。

「うぉ?!危ねっ!コラ!!総悟ォ!!!」
「こんな狭いところで刀振り回さないィィ!!!」
「沖田ァ!!止めんかァァ!!」

三人の男の叫び声と共にパトカーが江戸の町を蛇行しながら走っていった。







「いやぁ、私達も全く分からないんですよ。困ったものです」

静寂としたマヨネーズ工場内で従業員が困惑の表情で話す。

この従業員の話では、朝出勤するとマヨネーズを作る機械が全て無くなっていたらしい。もちろん出荷予定だったマヨネーズも全て消えていた。

土方は眉間に皺を寄せて歯を食いしばる。手に持っていた煙草をへの字に曲げた。

「どこのどいつだ…!!舐めた真似しやがって!!」
「ところで何で皆さん衣服がボロボロなんですか?」
「転けたんです。気にしないで下さい」

山崎は従業員の言葉をサラッと流した。

「窃盗事件かね?」
「犯人は土方さん以上のマヨラーですねィ」

腕を組み周りを見渡す原田の横で沖田は溜め息を吐く。土方はへの字に曲がった煙草を工場の床に捨て踏みつぶした。山崎はそれを慌てて拾う。

「お願いです。犯人を捕まえて下さい。これでは私達は仕事も無く路頭を迷う事になってしまいます」

従業員は涙目で両手を胸の前で組み土方達に訴えた。土方は従業員を一瞥すると懐から新たに煙草を一本取り出しマヨライターで火を付ける。

「無論だ。同じマヨラーであろうとマヨネーズ王国に敵対するケチャップ王国の者であろうと俺のマヨネーズを奪う者は誰であろうとぶっ潰す!真選組の名に賭けてな!!」



「…何?この複雑な気分」
「ここで真選組の名を賭けられてもなぁ…」
「いっその事マヨネーズの固まりである土方さんも消えれば良いのに」

三人は何かに誓うように火の付いたマヨライターを上に掲げている土方を見て深く溜め息を吐いた。







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