未来がどうなるか決まってたら面白くないよね3
まずは敵の刃を身を低くして交わすと抜刀ついでに一太刀浴びせる。見事相手の胴からは鮮血がほとばしり悲鳴を上げながら前へ倒れ込む。
それを避けるように後ろへ飛び退くと同時に左手を軸にして地を蹴り、後ろに居た敵に足払いをかける。横に転けかけたところを胸に突きをくらわせそのまま右へ払った。
三週間ぶりの獲物がこれか、沖田は落胆する。田中はどうしているだろうか、と彼の方に目をやると初陣とは思えない動きを見せていた。
敵の刃を鍔で受け止め弾くと沖田に言われた通り目一杯踏み込んで逆袈裟斬りで決める。返り血もさほど気にならない様子だ。
これはうかうかしていられないな。抜かれちまう。
沖田は刀を一振りして刃についた血を落とすとニヤリと口元を上げた。
「本当に初陣かィ?普通人を斬るってもうちょい躊躇して良いもんだろィ」
全員片付いた後、刀を布で拭きながら田中に言った。
「いや、内心ドキドキでしたよ。でもやらなきゃ危ないじゃないですか。隊長は最初どうだったんですか?」
そう答えた単純な奴は初めて人を斬って興奮しているのか少し顔を赤らめている。
「どうだったかねェ………あ」
「?」
「全員殺っちゃうと土方さんに怒られるんでィ。聴取できないだろーって」
「ちょっ……それ先言って下さいよ!」
テへッと言った感じで頭の後ろに手をやり言う沖田に焦る田中。
「一緒に怒られようぜ」
「えぇー…」
親指をビシッと立てて言うと田中は嫌そうな顔をする。
それを見てケタケタと笑うと「山崎に連絡する」と言って携帯電話を取り出した。
「……あ、山崎?処理班に久々の仕事だって言ってやってくれィ。…………そんなん言わなくても分か…」
突然刺さるような殺気を感じると同時に後ろの建物からキラリと何かが光る。
「田中ぁ!!!!」
「え」
しゃがんで死体を見ていた田中の腕を掴んで思いっ切り自分の元へ引っ張る。
――その刹那
チューーン!!!
「ぐっ!!」
「大丈夫か?!」
焦った表情で目を見開きこちらに倒れ込んできた田中を見る。
「い、いや、ちょっと足掠っただけですよ」
見ると右太股から血が流れている。軽そうな傷の具合を見て安堵する沖田。地面に落とした携帯電話から「沖田さん?!」と何度も呼びかける声を聞き電話の途中だった事を思い出す。
「あー、山崎。処理班と救護班もお願い。……あぁ、田中がちと怪我したんでさァ。…ほいほい、頼むわ」
電話を切ると弾が飛んできた方向を見る。殺気はもう感じなかった。一発だけで諦めたのだろうか。
「…やっぱ場数踏んでないと殺気とかわかんねぇよなァ……ん?どうしたんでィ」
先程から自分の足をジッと見つめたまま動かない田中を見て声をかける。
「いやぁ…何か足が動かないんですよ。痛くないし。麻痺してるのでしょうかね」
「麻痺?」
弾に何か仕込んであったのか、怪訝な顔をし田中の足を見る。
だが、沖田が見ても医学の知識などこれっぽっちもないのでただ弾が掠って血が出てるぐらいの事しか分からなかった。
「直に救護班が来るだろうから見てもらいなせェ」
「ですね」
「お世話になりました」
「あぁ、達者でな」
屯所の前で車椅子に乗った青年が近藤に挨拶をする。側には赤ん坊を抱いた女がいた。
「田中、また連絡しなせェ」
「はい、隊長もお元気で」
爽やかに笑う青年はあの新入隊士だった。
あの時に撃たれた弾に仕込んでいたのはただの麻痺薬ではなかった。山崎の調べでは最近新たに対天人用に作られた毒で傷口から中枢神経を麻痺さすらしい。
医者は脊髄がやられたのでは、とも言っていたが何分情報が少なすぎて分からなかった。
しかし、この男はなぜこんな状態になっても笑っていられるのか、もう刀を持ってその才を活かす事はできないのに。
怪訝な顔で見ているとそれに気づいた田中は沖田に言う。
「歩けなくても、戦えなくても、口があるから飯食えるし、目があるから綺麗な景色見れるし、耳があるから隊長の声が聞こえるし、それに…」
側にいた女、彼の妻から赤ん坊を受け取り大切そうにそれを抱く。
「娘をこうやって抱ける事ができるから十分なんです。俺にとっちゃあ剣の才なんてどうでも良かったかもしれませんね」
価値観の違いってか?益々わかんねェ…田中の話を聞いても尚難しい顔をしていると彼はふと笑い
「沖田さんは沖田さんらしく生きて下さい。ではまた手紙書きますね」
一礼すると車椅子に乗った青年は側にいた女を見上げる。
「…バカな人でしょ?」
そう沖田達に言い微笑む彼の妻も一礼する。そして彼の車椅子に手を掛け去って行った。
「…駿河に行くんでしたっけ?」
「あぁ、奥さんの実家が呉服屋を営んでいるそうだ。屯所の会計方でも良いんだぞ、と言ったんだけどな」
「…勿体ないなぁー」
できる事ならその剣の才を分割して俺の隊の者に分けてやってくれ。
「総悟も家庭持ったら分かるようになるさ!」
ガハハと豪快に笑う近藤を頭の後ろで手を組み横目で見る沖田。
「そんなもんですかねィ?俺はこいつが一番でさァ」
腰の刀を手に取り太陽にかざす。
「だから総悟は浮いた話一つも出てこないのか。家庭かぁ…俺もお妙さんといつか…」
「総悟、俺の机にあった書類が何か油まみれなんだが?」
空を見上げ惚けている近藤の横から煙草をくわえた土方が出てきた。こめかみがピクピクと動いている。
「あぁ…豚しょうが焼き味美味しかったですぜィ」
「やっぱりお前かぁぁぁ!!!!!!」
未だ惚けている近藤を残して2人は屯所内に消えて行った。
前向きな人が書きたかっただけなのに意外に長くなった。
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