小説 2

サンタと女と友情と 5

薄暗くなると共に町を彩るイルミネーションが点灯される。今日はクリスマスイブ。娯楽施設が建ち並ぶかぶき町の通りでは、肩を寄せ合って歩くカップル達が目立つ。その中に美の釣り合いが取れていないカップルがいた。

憂と原田の姿を確認し、永倉と合流した沖田達は行き交うカップル達に紛れながら歩いていた。例の浪士と思われる男達は所々で建物の陰に身を潜めながら後をつけている。

「女ってみんなそうなの?」

憂の本性を聞いた永倉は不愉快そうに顔をしかめた。その言葉に藤堂は苦笑いをする。

「山崎、あの野郎共に見覚えは?」

沖田が顎で男達を指して問う。山崎は首を横に振った。

「ない、ですね。というか…この件はまだ途中の段階なので把握仕切れていないというのが正直なところで…ただ、今現在の活動拠点はこの先にあります」
「だったら決まりじゃねーか。先回りして乗り込もうぜ」

やる気満々の沖田に藤堂は「無茶を言うな」と亜麻色頭を小突く。
陽は完全に落ち、連なる外灯が道を照らす。少し洒落た飲食店前にはクリスマスツリーが飾られており、ウェイターが一組のカップルを恭しく迎えていた。

「あの浪士達は何で尾行してるんだろ」

原田を拠点に導くつもりならついて行く必要などない。山崎は不思議に思い、首を傾げた。

「やっちまうか?クリスマスイブの夜空に花火打ち上げてやるぜィ」

バズーカを構えだした亜麻色の頭を藤堂が再び小突く。
憂と原田は時たま互いをつつきながら睦まじく歩いていた。聴覚が敏感な藤堂の耳に車のエンジン音やパチンコ店から流れる喧しい音に混じって男心をくすぐる憂の甘えた声が聞こえるらしく「可愛いんだろうな」と呟いていた。
店がまばらになり、人通りが少なくなってきた為、4人は建物の陰に隠れながらついて行った。

「ラブホじゃないんだねィ」

途中、露店で買ったフランクフルトを食べながら沖田はボソリ呟く。

「そろそろ何か起こすかもしれませんね」

山崎がそう言ったまさにその時、男達の一人が動いた。
スナック店に立て掛けられている看板の裏から原田達の前に出る。沖田達は気付かれないように近付き、男達とは反対側に身を潜めた。

「よぉ、ねぇちゃん。んなハゲ頭じゃなくて俺等と遊ぼうぜ」

続々と姿を現した男達はニヤニヤと笑っている。永倉は「おや?」と目を丸くした。

「ただのチンピラ?」

藤堂も首を傾げていた。しかし皆一様に刀を提げている、油断はできない。
憂は怯えるように原田の着物の裾を掴み身を寄せる。その仕草が子猫のように愛らしく、藤堂が「やっぱ可愛いなぁ」と呟いたが、周りからの冷たい視線に耐えかねて軽く咳払いをした。

「あぁ?!やるかコラ」

全く怯むわけがない原田は相手を睨みつける。憂と話している際に出るワンオクターブ上げた声とは真逆のドスの利いた声。手はすでに刀の方にいっていた。

「さすが、考えるより先に体が動いてるねィ」

沖田が手に持つフランクフルトの串をプラプラと揺らしながら言った。
敵の数は6人程度。数々の死線を潜り抜けている原田にとって、相手が相当の剣豪でない限り難しい数ではない。

「へぇ、兄ちゃんやる気かい?」

ボスらしき男が刀を抜く。それを合図に他の男達も次々と抜刀した。

「見学?」

沖田が串の先端を原田に向ける。藤堂は附に落ちないような表情で見ていた。
双方が睨み合っている中、端にいた1人が摺り足で横に動きだした。原田は気付いておらず、抜いた刀を構えて前方を睨み据えている。沖田は山崎の服を引っ張り、1人離れた男の方を指差した。
山崎は頷き、沖田と共に身を潜めたまま、できるだけ男に近付く。剣呑とした空気に拍車を掛けるように、肌を刺すような冷たい風が吹き付けてきた。

離れた男が原田の斜め後ろ辺りまで近付いた――その瞬間

「この女がどうなっても良いのか?!」
「きゃあぁ!!」

憂の腕を掴み、その首に刀身を当てた。


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