小説 2

サンタと女と友情と 4

山崎が報告に来たのは三日後であるクリスマスイブ、陽も落ち始めた夕暮れ時だった。

「黒です。グレーでも何物でもない真っ黒ですよ。女性は2つの顔を持ってるって本当だったんですね…」

藤堂と沖田は食堂の片隅で山崎の報告を聞いていた。昼勤の隊士達は帰っておらず、夜勤の隊士達は支度中である中途半端な時間帯で、今、食堂には3人しかいない。
山崎は身震いを起こしながら憂の事を話し始めた。店では天使のような可愛らしい看板娘。しかし、父親と二人きりの時はキセルを叩き、妖艶を醸し出す魔性の女と化していた。

「ただのハゲが鼻の下伸ばして…パパ、私の睨んだ通り。普段モテない男を落とすのは簡単よ。任せて」

悪女のように高笑いをする憂を見て、山崎は語尾にハートマークを散らしながら『憂たん』と呼んでいた友人を思い出す。いつの間にか頬に一筋の涙が伝っていた。

全てを聞いた藤堂は力無く首を横に振り、溜め息を吐く。

「相手によって使い分ける事ができるんだ。そもそも男と女は作りが違うんだよ」
「つかどうすんでさァ。あれから原田の惚け話が凄いらしいぜ」

沖田が菓子パンを頬張りながら言った。原田は十番隊の隊士達はもちろんの事、他の隊の者にも言っていた。昼間、沖田は五番隊隊長の武田から「原田に彼女ができたらしいわね」と言われた。原田自身あまり良く思っていない武田にも憂の存在を話しているという事は相当だ。

「内部事情を聞き出そうとしているのかね?」

藤堂は山崎に問う。

「恐らくそうでしょう。もし命を狙っているのならもう一服盛られてますからね」
「まぁ…まずないねィ。原田の脳の容量はこのぐらいでさァ」

沖田が掴み上げたペットボトルの蓋を見て藤堂は空笑いをする。

「ひどい言われよう…ん?」

藤堂の携帯電話が鳴った。ポケットから取り出し、液晶場面を見る。

「永倉だ」

電話の応対をする藤堂の横で沖田が菓子パンの空袋を山崎に押し付けていた。山崎は難しい顔をしながらそれを丸める。突如、藤堂が驚いた声を上げた為、沖田と山崎は彼の方に目を遣った。

「例の甘味処の娘さんが右之と一緒らしいんだが、浪士らしき男が数人、後をつけてるらしい」

原田を人気のないところへ連れて行き、浪士達に斬らすつもりなのだろうか。携帯電話を顔から離し、眉をひそめている藤堂に向かって沖田が言う。

「早いねィ。でも原田なら一人でもやれるんじゃね?」

ペットボトルの蓋程度の容量しか物を覚えられない馬鹿だが、十番隊隊長らしく剣の腕は良い。そう簡単にやられる男ではないのだ。しかし、心配性の藤堂は依然変わらず、浮かない顔で唸っていた。

「目的地がとんでもない所かもしれないぜ。今、永倉が尾行してるから行こう」
「そうですね」

山崎が頷き、藤堂は電話相手の永倉にその意を伝える。

「サービス残業か」

沖田は肩を竦めて立ち上がり、空になったペットボトルを山崎に向かって放り投げた。


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