小説 2

サンタと女と友情と 3

甘味処の店先にある大きな赤い番傘に茶色い葉が落ちる。その下で男女二人、仲良さそうに肩を寄せ合っていた。

「はい!右ぅたん。お口あぁーんして!」

黒髪の女性が爪楊枝で刺した羊羹をスキンヘッドの男性の口元まで上げる。男性は満面の笑みで口を開けた。

「うん、美味しいよ!憂たん!」
「わぁ!憂たん嬉しい!」
「右ぅたんも嬉しい!」

底冷えする寒さの中、二人の周りだけが春のように花が咲き誇り、蝶々が飛んでいた。





「…おい」

民家の塀に隠れてお花畑を見ていたバンダナ頭の青年が、恐ろしい物を見たかのように身震いをした。

「何だ?あれ」
「テディベアになろうとしているヒグマ」

藤堂の問いに沖田が即答する。その隣で永倉はこめかみをピクピクとひきつらせながら、異様な雰囲気を醸し出す美女と野獣を見ていた。

「誰だよ…まだ入れ込んでないって言ったの。どっぷり浸かってるじゃん」

変わり果てた友人の姿に、その場でしゃがみ込んで頭を抱えだした。

「わあぁ…」

山崎に関しては、もう声にならないといった感じだ。
近くで仲間達が完全に引いているとは露知らず、原田は依然花を咲かせていた。憂はこの甘味処の看板娘だが、店内に入っていく客達には目もくれていない。

「右ぅたん、クリスマスは一緒に過ごそうね」

憂は白い華奢な手をそっと太い筋肉質な手に乗せる。

「お、おぅ!もちろん!」

原田は両頬を紅潮させ、何度も頷いた。そんなハゲ頭を見て憂は声を出して笑う。

「やだ、右ぅたん。さっきえっちな事考えたでしょう!」
「ば…っ!俺はこう見えても硬派なんだぜ!」

見る見る内に原田の顔が真っ赤になり、ハゲ頭から白い湯気が立ち上っている。

「あ」

突如、携帯電話の着信音が鳴り出し、原田は懐を探り始めた。取り出した携帯電話を開き応対する。

「ん、あ、あぁ、分かった」

パタンと携帯電話を閉じ、申し訳なさそうに眉尻を下げて憂を見た。

「すまん、仕事戻んねぇと」
「寂しい…また来てね」

憂に上目遣いで見られ、一度引いた顔の赤みが再び復活した。

「も、ももももちろん!!」

原田は立ち上がり、憂に向かって敬礼をする。不自然な彼の行動に憂は可笑しそうに声を出して笑った。




「…ったく。とりあえずこの場は離したけど…どうするかな」

路地裏では藤堂が顔をひきつらせながら、閉じた携帯電話をポケットの中に入れていた。溜め息を吐いて腕を組み、天を仰ぐ。
隣の沖田は耳をほじりながら顔をしかめていた。

「右ぅたんと憂たんって呼び方似すぎでさァ。聞いてるとどっちがどっちなんだかよく分かんねぇ」

そう言い、路地裏から半身を覗かせ、ちらりと甘味処の店先を見た。憂は店内に入っていったようで誰もいなかった。
永倉が藤堂の隊服を引っ張る。「ん」と藤堂が振り向くと、眉をくもらした永倉が見上げていた。

「山崎が戻ってきてから考えても遅くはないだろ?あの子、マジで右之に惚れてるかもしれないしさ。折角のチャンスを潰すのも可哀想じゃん」

少し前に山崎が「原田について何か話しているかもしれない」と言い、甘味処へ行っていた。
藤堂は「へぇ」と意外そうな声を出して目を丸くさせた。

「…永倉の口から恋話がでるなんて…新鮮だ」
「何だよそれ」

永倉の片眉がピクリと上がった。
憂と原田がいない事を確認した3人は路地裏から通りに出る。

「様子見か」

藤堂は首の後ろを掻きながら甘味処を見た。綺麗に包装されたプレゼントの山を両手に抱えた男性が、歩きにくそうに通り過ぎて行く。沖田は何処かの店から流れてきた軽快なクリスマスの曲に合わせて鼻歌を歌っていた。


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