小説 2

新入隊士がゆく‐隊の規律‐





一番隊に配属された。



何故。

どうやら試験後、斉藤隊長に感想を訊いた事が良かったらしく「向上心があり、化ける可能性がある」と判断され一番隊になったようだ。
しかしながら一番隊に配属されたという事は変人奇人が多いと言われど大変名誉な事。
俺は期待と不安を胸に一番隊が集まる部屋へ行った。


「コイツが新人隊士の名無権平でィ。仲良くしてやってくれ」

一番隊隊長、沖田隊長が俺の肩に手を置き紹介してくれた。
確か彼はまだ18歳だと聞いた。サラサラの亜麻色の髪に蘇芳色の大きな瞳。格好良いとも可愛いともとれる中性的な少年。しかしそんな外見とは裏腹に刀を握らせば誰よりも人を斬る鬼神となるらしい。
年下が上司とは変な気分だが、実力社会だ。そういう関係も受け入れなければ世の中渡り歩けないであろう。

…しかし、先程から禍々しいオーラを感じる。あのぐるぐるの眼鏡を掛けたオールバックの男からだ。きっと眼鏡の奥の目はこちらを睨んでいるのだろう。

何か彼に悪い事でもしただろうか、考えるも覚えがない。
首を傾げていると目の前に沖田隊長の顔が現れる。

「今日新入隊士の歓迎会があるらしいぜィ。楽しみにしてなせェ」

そう言う沖田隊長も楽しそうだ。笑うと益々子供っぽいな、と思った。

「わぁ!そうなんですか?嬉しいです」

例の禍々しいオーラが更にドス黒くなった気がした。

「ここは何かにつけて宴をするんだ。最初は少し驚くかもしれねェがすぐ慣れ」
「総悟ォォォォ!!!!!」

縁側を踏み鳴らす音が聞こえてきた。
スパァーン!!と超高速で襖が空いた先には何百の人を食い殺した鬼のような形相をした副長が立っている。

何故か俺が殺されるのではないかとも思った。

「ん?どうしやした?」
「てめぇ…このマヨネーズ、絵の具にすり替えただろ」
「イリュージョンでもしたんじゃねぇんですか?」
「するかァァァ!!!!」

副長は腰に帯びていた刀を抜いた。
え、マジですか?ここで斬り合いですか?

「マヨネーズ君は生き別れた兄弟、タルタル君を探しに出掛けたんでィ。それで絵の具君に留守番を任せたってわけ」
「そのメルヘン脳叩き割ってやるわァァァ!!!」

副長は叫びながら容赦なく沖田隊長目掛けて刀を振り下ろした。すぐ隣に居た俺は慌てて逃げる。
刀は空を斬り、畳を縦一直線に斬り込んだ。

ちなみに沖田隊長はもういない。

「待ちやがれ!!」

副長は部屋を飛び出し、再び縁側を踏み鳴らしながら去って行った。

「…」

ヒョオォォォー…と何処からともなく風が吹く。俺は唖然としていたが、一番隊隊士達は慣れているのか平然としていた。

「えぇー…名無君?」

ポン、と肩を叩かれた。
振り返ると先程禍々しいオーラを発していた眼鏡の男が立っていた。

「はい?」
「自分は神山って言う者っス!一番隊に入ってきたにはこの五箇条を守ってもらわないと困るっス!!」

と、一枚の紙を目の前に差し出してきた。

局中法度の他にも隊ごとに決まり事があるのか、俺は差し出された紙を見た。




一.隊長の顔を三秒以上見つめない事(神山以外)

二.隊長の体を一秒以上触れない事(神山以外)

三.隊長に尻を見せて良いのは神山のみ

四.隊長に惚れる事を禁ずる(神山以外)

五.トイレから出た後は手を洗おう









いやいやいや、


これ、一番隊の皆様はちゃんと守っているのだろうか。つか何故最後だけが親が子供に対する言いつけのような事なのか。

困惑する俺の背中を別の隊士がポンポンと叩き、無言で首を横に振った。


あ、やっぱり別に守らなくとも良いんだ。


ホッと安堵したと同時に一番隊に変人が多いという意味が理解できた。

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