小説 2

仕掛け花火 6

突然飛んだ将軍のせいか、会場内のどよめきがここまで聞こえてくる。しかし、花火は変わらず打ち上げられていた。

「…戻って、来ませんね」

呆然と空を見上げる山崎の足元には緑の導線以外全て切られた木箱が転がっている。沖田はしゃがみ木箱を持ち上げた。

「あれ?時計止まってねェ」
「えぇーっ!!!」

原田と永倉が同時に声を上げた。藤堂が沖田の肩の上から覗き込む。01:15、01:14、01:13…と、変わらないカウントダウンが続けられていた。

「緑じゃないってことか?」

藤堂は首を傾げ、隣にいる永倉に問う。

「じゃあ最初の沖田のヤツが当たりだったんじゃね?」
「それをいうなら欠点を的確に貫いた永倉のヤツだろ」

肌を刺すような空気が流れ、鯉口を切る冴えた音が鳴る。

「…どう考えても将軍ロケットでしょ」

剣呑な二人を背後にして、山崎は深く溜め息を吐いた。
喧嘩が勃発したようで、永倉が沖田に向かって斬りかかっていた。宙を飛ぶ木箱を受け取った原田はデジタル時計を凝視する。

「…後30秒なんだが」
「将軍は空に避難させたんでィ。爆発してもだいじょーぶい」

不安げに呟く原田に対して、沖田は飛んでくる白刃を避けながらブイサインをした。藤堂は手を横に振りながら「いやいやいや」と否定する。

「もういっその事この緑も切っちまえよ」
「え、バカ…!」

慌てて藤堂が止めに入るが時既に遅し。原田は緑の導線を切ってしまった。

――その瞬間、空気が抜けたような音が鳴り、木箱の中からドライアイスのように冷たい煙が湧き出てきた。

「お、おぉっ?!」
「もう俺知らない」

藤堂は両耳を押さえながら原田から離れる。刀を振り回していた永倉も目を丸くして煙に覆われた箱を見ていた。
木箱全体がぼんやりとした光を放ち始める。ジジジ…と僅かな電子音がしたかと思うと突如、箱から映像が飛び出してきた。

『やぁ、諸君。私の仕掛箱楽しんでくれたかい?』

画像は粗いが、そこに映るのは中年男性のようだった。五人が無言で見ている中、男性は淡々と話す。

『いやぁ、この仕掛けを作るのに苦労したんだよ。ちなみにどれを残しても結果は同じで時計は飾りなんだ。時限爆弾風にした方が緊張感が出ると思ってね、ハハハハ!!今年の花火大会は君達にとっても良い記念になっただろう!!祭りは良いな!!来年も期待してい』

原田が箱を放り投げた。映像に映る男性ごとくるくると宙を回る。すかさず永倉が抜刀済みの刀で一刀両断した。

「…結局なんだったわけ?」

沖田が肩を竦めて他の四人を見る。地面に叩きつけられた箱の映像は消え、真っ二つになった箱から稲妻のようにバチバチと放電していた。
永倉は心底から呆れたように盛大に溜め息を吐き刀を納めた。

「まぁ、何事もなく結果オーラ」
「ちょっと待って下さい。将軍は?」

山崎の言葉を聞いて、一斉に将軍が旅立った夜空を見上げた。
もうフィナーレに入ったのだろう。大小鮮やかな色彩の花火が空一面に広がる。昼間のように明るくなり、半月も白く覆われ見えない程だ。

「すげぇな…花火が迫ってくるみてぇだ」

原田が言った。藤堂と永倉がそれに頷く。
江戸屈指の花火師が仕掛ける壮大な演出に、五人は自然と魅入ってしまっていた。

「副長の所に戻るのが怖いんですが…」

花火を見ながら山崎が呟く。すると沖田はビニール袋を山崎に差し出した。

「気にすんなって。この焼きそばでも食べなせェ。冷めてっけど」

それを見た途端、山崎の目が飛び出さんばかりに大きく見開き、わなわなと両肩が震え出す。

「忘れてたァァァァ!!!!」

山崎の渾身の叫びは最後を飾った10号玉花火の轟音に掻き消されていった。







「花火を見下ろしたのは初めてだ。知っておるか?花火は上から見ても円の形になっておるのだぞ。実に良い勉強になった。また来年も見てみたいものだ」


――後日、何故か江戸城の天守閣で発見された徳川茂茂はこう言ったそうだ。


[*前]







オチが弱いのはいつもの事です。
どこぞの発明家がやらかしたイタズラみたいなものでした。


戻る

- ナノ -