小説 2

新入隊士がゆく‐各隊の特徴‐





受かった。



坂道を転がるボールを追いかける子供のようだが、そのボールを止める壁のようでもある、は合格だったようだ。


新入隊士の紹介を含めた朝礼が終わった。全体的に若い人が多いな、というのが第一印象だ。
まだ属する隊は決まっておらず、持ってきた荷物は大部屋にある。隊の発表は今日中にあるらしい。

しかし…自分はどの隊がどのような雰囲気なのか知らない。どの隊に入ろうとも精一杯自分の任務を全うする気でいるが、何事にも人間関係は大事だ。少し気になる。

「どの隊になるか気になります?」

俺は近くにいる同期に話しかけた。
スタート地点が同じ者と情報を交換しながら良い仲になりライバルとなる事が仕事を長く続けるコツだと自分は考えている。

「うむ…。この煎餅うまいな。君も食べるか?」


聞いちゃいねぇ。


黒く長い髪の男はバリバリと音を出しながら醤油煎餅をかじっている。
とりあえず差し出された煎餅を有り難く受け取りもう一度訊いてみることにした。

「えっと、どの隊になるか気になりません?」
「ん?そうだな…確かに気にはなるが」
「そうでしょ?!僕もなんですよー。それぞれの隊がどんな特徴があるのか分からないし」
「そんな事も知らんのか?」
「え?!知っているのですか?」

長髪の男は何枚目かの煎餅を食べながら当然だろう、という感じにこちらを見てくる。

事前に調べてくる事は当たり前だったのか…不覚だった。
俺はがっくりと肩を落とす。

「そう気を落とすな。どれ、教えてやろう」







一番隊
隊長は沖田総悟。真選組最年少にして最強の男。
この隊に属する隊士は変人が多い。だが、隊長の単独行動が多い為か各個人の意思がはっきりしており何をすべきか臨機応変できる。
討ち入りの際は真っ先に突入し、仲間の士気を上げさせる役目をもつ。死番ともいう。その為、強者ばかり揃っている。

――俺は変人ではないからこの隊ではないだろう。ちなみに「死番」というのは、もっとも敵の攻撃を受けやすいという事からこの名が付けられただけで決して死ぬ為の役ではない。


二番隊
隊長は永倉新七。沖田に次いで剣の腕が良い。
真選組1〜10番隊の中で一番厳しい隊。しかし非番時は遊びや食べに連れて行ってくれるなど飴とムチの使い様がうまい。日頃厳しくはあるが、喜怒哀楽がはっきりと顔に表れる為に隊士達からは無邪気な子供のようだと人気がある…が、その事を含め背丈が低い事は禁句。

――厳しいのは見た目で舐められない為とか。最初ここの隊長は子供かと思った、などという事を口に出したとすれば、きっと俺の人生に終止符が打たれるのであろう。


三番隊
隊長は斉藤終。永倉の次に強いのではないか、と言われている。
1〜10番隊の中で一番隊士の数が少ない。しかし皆強者揃いで狭く深くといった感じ。恐らく隊長が対集団戦が得意だからだと思われる。
隊長がたまに言うおかしな比喩表現を解読できる事が隊に慣れる必須条件。

――実技試験で即合格を取った人は一番隊かここに入れられるらしい。俺は無理だ。実力もそうだがあの比喩表現は訳が分からない。


四番隊
隊長は杉原忠治。刀を持たすと人が変わる二重人格者。
穏和な性格で隊士達にも優しく接してくれる。しかしガラスのハートなので接し方に注意が必要。見廻り中、よく隊長が悪徳商法にひっかかりそうになる。その時はやんわりと止めるが吉。
刀を持った時の劇的な変化のしようには誰しも驚愕させられる。

――なんという面倒臭い性格。しかし…刀を持つとどのように変化をするのだろうか。気になる。


五番隊
隊長は武田観念斎。剣の腕はイマイチだが、策を考える事が得意で土方の代わりに策を考えたり手助けを行う程。
オカマだが、恋愛には興味がないらしい。しかし、本人曰くやはり女性より男性の方が良いようだ。いつ目覚めるか分からないのである意味注意が必要。
討ち入り時、隊士達はもちろん戦闘に参戦するのだが、隊長はどこかに行ってしまうようだ。

――…ほ、掘られる…?


六番隊
隊長は井上源二郎。沖田が最年少ならこちらは最年長。
気配りが良い隊長のおかげで揉め事が少なく真面目な隊。色んな相談に乗ってくれる。隊長の夜目が利く為に夜勤を任される事が多い。
六番隊は予備的な隊。討ち入りの際は屯所で留守を任される事が多い。

――皆若い為か、白髪混じりの髪をした隊長の外見がやけに目立った。人の良さそうな顔だったが、鬼の副長はこの人だけには頭が上がらないとか。年配者だからだろうか。謎だ。


七番隊
隊長は丘三十郎。無類の酒好きだが、悪酔いはしない、というか酔わない。
いかにも若者の隊、といった感じで賑やかなようだ。ふざけあったり喧嘩したり真面目だったり。

――槍ではこの隊長に適う者はいないらしい。しかし刀の方が格好良いと刀を使っているようだが…何事にも見た目から入る人なんだな。俺と同い年らしい。


八番隊
隊長は藤堂凹助。聴覚がやたら敏感。
些細な事まで心配して気遣ってくれる隊長。大変な役は隊長自身が進んでやってしまうらしい。教え上手で稽古時は人気。非番時、隊員との交流は滅多にない。

――隊員は非番時の隊長の連絡のつかなさに苦労させられるらしい。携帯電話の電源を切っているとか。携帯の意味がない。


九番隊
隊長は二木二郎。



「え、これだけですか?」
「この隊は目立った特徴が無さ過ぎる」



十番隊
隊長は原田右之助。合コン好き。
団結力が大変強い隊。和気あいあいとし、笑いの絶えない明るい隊で一番人気がある。非番時はもちろん仕事が終わった時も遊びや飲みに連れていってくれる。
討ち入り時は一番隊に続いて出動回数が多い。

――隊長の顔は少々厳つかったが男気のある情が深い男のようだ。とても雰囲気が良いようでちょっと入ってみたい気がする。







「…という感じだな」
「ありがとうございます!いやぁ…凄いですね!ここまでご存知とは…」

いやはや全く、ずいぶん前から調べ尽くしているような…そんな情報が満載だった。良い勉強になった、俺は満足げにメモをポケットに入れる。

「当たり前だ。敵方の情報はどんな些細な事でも頭の中に叩き込んでいる」


ん?敵方?


目を閉じ腕を組んで頷いている長髪の男を見る。
そういえば…こんな男、朝礼の時いたっけな。というか、この何かを悟っているような瞑想しているような仕草…確か面接の前に、


「かぁぁつぅらァァァ!!!!」


――ドカァァーン!!!


爆発音と共に俺の体は爆風で吹っ飛ぶ。

「当然の如く居すぎじゃねェか?なぁ?つか煎餅食い過ぎじゃねェか?」
「フハハハ!!大切な煎餅を食われた精神的ダメージはでかかろう!!狙い通」
「おぉーそうですかィ。煎餅代はおめェの命で勘弁してやらァ」


――ドカァァーン!!!



あぁ…やはり真選組隊士となった今、安息の地などないようだ。気を引き締めなければならない。


薄れゆく意識の中、俺はそう思った。

[*前] | [次#]





戻る

- ナノ -