小説 2

仕掛け花火 5

少し離れたところで原田が不機嫌極まりない永倉を宥めていた。

「なぁ…時間制限があるの忘れてね?」

藤堂が箱の側面を指でトントンと小突いた。取り付けられているデジタル時計は自分達が寸劇をやっている間にも刻々と時は過ぎている。

「もう一気に切っちまえよ、山崎」
「えぇーっ?!俺ェェ!!!」

沖田が投げたペンチが後退りをする山崎の足元に転がった。

「橙と黄と緑。その三本いっちゃえ」
「いっちゃえ、じゃないです。そんな冒険したくないです」
「男は幾つになっても冒険心溢れる少年でさァ」

青ざめる山崎に向かって沖田は真顔でビシッと親指を立てる。

「嫌です」
「でも時間ねぇし」
「まぁ…確かに」

山崎はちらりと時計を見た。もう10分を切っている。

「じゃ、じゃあ藤堂さん、その藍色切って下さい!俺、橙と黄色切りますから!」
「えぇー!俺もしなきゃ駄目?!」

何処から出してきたのか、山崎は新たにペンチを取り出し、藤堂に押し付けた。

「緑残すの?」
「緑化運動的な意味で」

沖田の問いに山崎は自分でも意味が分からない答えを返した。

「んじゃあせーのでいきましょう!」
「もしセーフでも3パターンの仕掛けが1度に来るんだろ?」

山崎の相方に選ばれた藤堂はペンチを持った腕を力無く前に垂らし、嫌そうな顔で箱を見ている。
一方、空では見事な連続花火が打ち上げられていた。雷の閃光のような白い光が絶え間なく放たれ、花火玉の破裂音が胸に響く。微かな火薬の臭いが風に乗ってここまで運ばれてきた。

「いきますよ!」

山崎は意を決したようにペンチを握る手に力を入れた。二本の導線を掴む手が小刻みに震えている。

「せーのっ!!」

山崎と藤堂はそれぞれ導線を切った。


――その刹那、地鳴りのような轟音が聞こえてきた。五人は辺りを見回す。

「え、え?!なに」
「あ!!」

焦り出す山崎の傍で沖田が声を上げた。皆一斉に沖田の視線の先を見る。
花火の薄い白煙に混じり、濃い白煙が入道雲の如く、立ち上っていた。遠目ではあるが、それは将軍、徳川茂茂が座る高台からだと分かった。
もしや爆破されたのか、山崎の背筋が凍り付いた。だが次の瞬間、信じられない物を見るかのように大きく目を見開く。


将軍が座っている席が飛んだのだ。


まるで打ち上げ時のロケットのように白煙をもくもくと出し、炎を噴き上げて夜空に向かって高々と飛び立ってしまった。


「…」

さすがの沖田も閉口する。天高く飛んだ茂茂の椅子はキラリと星々と共に光り、完璧に消えた。

「うそぉ…」

永倉が空を見上げてポツリと呟く。
携帯電話の着信音が鳴り響いた。山崎はびくっと両肩を跳ね上げ、震えながら懐の携帯電話を取り出す。

「……副ちょ」
「出るなよ」

原田のハゲ頭から一筋の汗が流れていった。


[*前] | [次#]





戻る

- ナノ -