小説 2

仕掛け花火 2

沖田は片手に唐揚げ、もう片手にフランクフルトを持ち、祭りを満喫していた。途中、神山が「お供します!!」としつこく寄ってきたので、焼き鳥の串を尻に刺し近くの池に捨てた。

後、30分程で花火が上がる予定だ。毎年、腕の良い花火師達がこの日の為に作った幾つもの花火玉を打ち上げる。
『夜空に咲く大輪の花』とはよく言ったもの。その見事な出来映えに皆、感嘆の声をもらす。全てが打ち上げられた時には割れんばかりの拍手が沸き起こるのだ。

「ん?」

フランクフルトの棒を加えたまま、前方の屋台に目がいった。焼きそばを買っている真選組隊士がいる。よくよく見るとその隊士は山崎であった。

「よ、山崎。おごってくれんの?」
「あ!沖田さん!!副長怒ってましたよー。早く持ち場に戻って下さいよ」

お釣りを受け取っていた山崎が沖田を見て言った。

「おめぇこそ何、買い食い?」
「俺じゃないです。将軍ですよ、将軍。沖田さんも美味しそうな物持ってるじゃないですか」

そう言いながら山崎は小銭をポケットの中に入れる。沖田は「これか?」と唐揚げを上げた。

「俺じゃねぇよ。俺の中に住んでいる祭りの神様に御供えするものでさァ」
「結局沖田さんの胃の中に入るんですよね」
「だから違うって。俺の中だって」

飄々としている沖田に向かって山崎は「もうどちらでも良いです」と力無く首を横に振った。

「まだ爆弾発見されていないらしいので気を付けて下さいね」

真剣な面持ちでいる山崎とは対照的に沖田の方はフランクフルトの棒を口に加えたまま上下に揺らし、余裕たっぷりの表情。揺らしていた棒を手に取り、そのまま唐揚げを刺した。

「実は花火の事だったりして。夜空に散らばる星々を爆撃します、なんちゃって」
「またまた…冗談を」
「沖田隊長ぉぉぉーっ!!!!」

唐揚げを口に入れようとした途端、神山が砂埃を立て人混みを掻き分けながら走ってきた。周りの人々は大層迷惑そうだった。

「池の中でこんなものを見つけたっス!!」

小脇に小さな木箱を抱えていた。何故池の中からなのだろう、という山崎からの疑問の視線を浴びながら神山は敬礼をする。びしょびしょに濡れた袖から水滴が滴り落ちていた。

「はぁ…何でィ。宝箱か?」
「何やらデジタル時計のような物が付いているであります!!しかし、普通の時計とは違ってですね!まるで自分と隊長とのXデーまでカウントダウンされているかのように」

すでに焼き鳥の串が刺さっている神山の尻に新たな棒が突き刺さる。そのまま沖田に蹴り飛ばされ、林の中に消えていった。
残されたのはデジタル時計が取り付けられた小さな木箱。

「…あの、これってもしかして…あれ…ですよね?」

山崎は小刻みに震える指で箱を差した。「あれ」といったら一つしかない。今、探している物だ。

「そりゃあ…見た目からしてなぁ…」

沖田はしゃがみ、箱を持ち上げた。片耳を側面につけて耳を澄ます。しかし、もう片方の耳から入ってくる祭りの喧騒しか聞こえなかった。

「ただの空箱にしちゃあ重さがあるねェ…」

池の中にあったゴミにしては綺麗だ。重さを確かめるように箱を上下に振り、興味津々に箱を探る沖田に山崎は慌てふためいた。

「ちょ、沖田さん!爆発したらどうするんですか…!」

真偽不明な犯罪予告があった事は真選組内部の者しか知らない。混乱を招いてしまう為「爆弾があるぞ」と叫ぶわけにはいかなかった。
目の前にあるデジタル時計が取り付けられた木箱、いかにも爆弾装置に見える。もし、本当に爆弾であったら将軍はもちろんの事、市民の安全も確保しなくてはならない。事が起こってからは遅すぎるのだ。
山崎は土方の指示を仰ごうかと、携帯電話を探り始めた。


そこへ、見廻っている藤堂がやってきた。焼きそばの屋台とおもちゃくじの屋台に挟まれて何かしている二人を不思議に思ったのだろう。二人の元へ行き、しゃがんでいる沖田の手元を後ろから覗き込む。

「どうした?」
「まさか遊んでんじゃないだろうなぁ?」

藤堂と一緒にいた永倉が訝しげに沖田を見た。

「まぁ、祭りに来て何もするなってんのが酷だよなぁ」

永倉と同じく共にいた原田はとうもろこしを食べている。
沖田は木箱を亜麻色頭の上に乗せ、藤堂を見上げた。

「宝箱でィ」
「へ?宝箱?」
「そんな良い物じゃないと思いま……って」

山崎は取り出した携帯電話を落とした。沖田が木箱の蓋を開けたからだ――いや、それだけだったらまだ良かった。箱の中には七色の導線がずらりと並んでいた。


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