小説 2

新入隊士がゆく‐実技試験‐

どうやら先程の騒ぎは攘夷浪士が屯所内に侵入していたらしい。
屯所内に居てもそんな事があるのか…江戸の治安を守る特別武装警察真選組、安息の地などないのかもしれない。


面接も終わり次は実技試験だ。隊士に案内され道場に来た。

「実技担当の三番隊隊長、斉藤です。今から試験内容を説明します」

長い茶色の髪を高めに結い、整った顔立ちに細い目、中肉で長身。中々の美形だ。

「まず、面と胴と小手にこの板を付けて下さい。そして番号順に三名ずつ私と打ち合って頂きます」

え、1対3?

周りもざわめき出す。斉藤隊長はそれに構わず一人の隊士を呼び、数十枚の板が入ったカゴを渡した。

「私が付けている板を一枚でも割る事ができれば実技は合格だと思って下さい。自分の板が全て割られた時点で試験は終わりですが…だからといって不合格というわけではないので安心して下さいね」

そう言って斉藤隊長は自分の板を付け始めた。
剣術は少し自信がある。まぁ、なかったらここには来やしない。俺の順番はまだまだ先なのでとりあえずまだ板を付けずにいた。

「では…1から3番の方」

斉藤隊長も3枚の板を付けている。
1対3か。一人ぐらいはその場で合格を言い渡される者が出てくるのだろうか。




――と、思っていたのだが、自分の番が来るまで誰一人斉藤隊長の板を割る事はできなかった。
彼は最初の立ち位置からほぼ動かずに全ての板を割っていってしまったのだ。俺の番はあっという間にやってきて慌てて板を付け始める。

「はい、次どうぞ」

もう何十人と相手をしているのに息も乱さず平然としている。あの方はサイボーグか。

俺は益々真選組に入りたくなった。これはなんとしてでも斉藤隊長の板を割らなければ…

「はじめ!」

隊士が開始の合図を掛けた途端、俺達3人はほぼ同時に斉藤隊長に襲いかかった。

まず斉藤隊長は斜め前から面を狙いに来た竹刀を摺り上げる。返し技で面を打ち、相手が慌てて反撃をしようとしたその小手にまで一撃を喰らわす。
そして彼は間を空けず、身を低くし竹刀を横に開けば別方向から来た者の胴を打った。

俺はチャンスとばかりに背後から空いた胴を狙う。しかし、くるりと振り向かれ「え」と驚いたその時には自分の胴を打たれていた。

ともかく何処を狙おうとも竹刀が飛んでくる。隙ができたと思い狙えば待ってましたと言わんばかりに弾き返される。
実はこの人はロボットで、他の人が別の場所からリモコンで操作をしているんじゃないか、とまで思えてきた。

俺は最後まで残ったのだが、結局三枚とも割られ終了。

「ふぅ…」

俺は吹き出た汗を拭き、息を整えながら考える。
彼と竹刀を交える事なく一方的に割られて終わる者が多数いた。そんな中、俺は数回交える事ができただけでも良かったのではないか?

…しかし、ただの自惚れかもしれない。
俺は自分の力量が彼にどう映ったのかが気になり、何かを書いている斉藤隊長の元へ行った。

「あの…どうでした?」
「え?」

顔を上げ、吃驚したように目を丸くしながら自分を見た。
さすがにいきなり過ぎて失礼だったか、俺は慌てて両手を左右に振りながら言い直す。

「い、いや…!その、真選組隊長と竹刀を交える事なんて滅多にないので…!俺の剣術はどうだったのかなー…と、す、すみません!」

訊かなきゃ良かったかな、俺は若干後悔した。しかし彼は微笑を浮かべ「あぁ」と言ってくれたのでホッと安堵する。

「坂道を転がるボールを追いかける子供のよう…でも、そのボールを止める壁のような安心感がある刃筋だね」
「???」


やはり後悔した。

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