小説 2

4がつ1にち(はれ)7

いい加減本人を呼ぼうではないか、ようやく満場一致で首を縦に振ったのは、もうおやつの時間を過ぎた頃であった。
何をそんなに拒む事があったのか、上司の可笑しい親心に山崎は口からため息をもらす。

「すみませーん!」

襖の向こうから男性の声がした。

「ん?」

なんだろうと山崎が襖を開けると、鞄を肩に引っ提げている男が封筒を持って立っていた。表口では誰もいなかったのだろうか、飛脚が中庭まで入ってきていた。

「これ、ハンコお願いします」
「あ、はーい。ちょっと待って下さいね」

山崎はそう言うと縁板を鳴らしながら走っていった。

「局長!見ましたよー!」

飛脚は満面の笑みを浮かべて近藤を見た。近藤は「ん?」の首を傾げる。

「何をだ?」
「あの一番隊隊長さん!チャイナ服を着た可愛らしい女の子の大きなお腹をさすっていたのを見ましてね!あの方ももうじきパパですかー!」

土方が持つ煙草がポロリと落ち、銀時が持つ茶碗にピシリとひびが入った。山崎が持っていたハンコが縁板をコロリと転がる。

「え、えぇ?!お腹大きかった?!」

近藤の上擦った声に飛脚は「あれ?」と目を丸くする。

「え。まさか知りませんでした?はぁ…若い方ですからね。いつの間にやら逢瀬を楽しんでギャアッ!!」

飛脚の両側を超高速で二本の刀が通り過ぎていった。二本の刀は塀に突き刺さり、四方八方に亀裂が入る。ひび割れた瓦塀を粉砕してしまうような土方と銀時から発する圧力が飛脚の自慢の足を崩させた。

「黙れ」

尻餅をついている飛脚は必死に何度も頭を上下に振る。

「夜兎族の妊娠期間は十日程なんでしょうかね…」

山崎はハンコを拾い上げるのも忘れて呆然としている。

「ここは俺達も素直に産まれてくる新たな命を盛大に祝ってあげようじゃないか」

近藤は土方の肩をポンと叩いた。銀時が持つ茶碗のひびから茶がちょろちょろと流れていった。


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