小説 2

新入隊士がゆく‐面接‐

俺は名無権平、23歳。真選組隊士徴募に集まった者の一人。門番の方に入隊希望だという事を伝え敷地内に入る。
よく見廻り中の隊士達は見るが、屯所の門を潜る事は初めてだ。今までは屯所を囲む高い塀で見る事はできなかったが、中に入ってみると結構でかい。ほとんどの隊士はここで寝泊まりをしていると聞いた事がある、当たり前といったら当たり前か。

建物もでかいが庭もでかい。松ノ木があり池がある。巻き藁が数本立っており、そこで隊士達は日々剣術の練習をしているのだな、と思った。

門番の方は中庭に集まるようにと言っていた。
どこだろうと探さなくても一目で分かった。中に入ったすぐ横の敷地内で真選組の隊服ではない男達が集まっている。チンピラ集団と言われようとやはり人気ある職のようだ。幕府直属の警察組織、収入も安定している。十名程の徴募数に対し、やって来たのは四十名程。

「うーん…」

いかにも強者といった面々ばかりだ。自分は中肉中背、普通の体型だ。もしや俺一人浮いていないか?と心配になった。

………いや、待て。俺なんかよりずっと浮いている奴を見つけた。

ペンギンとアヒルを合体させたような変な白い奴がいた。中に人でも入ってそうだ。何だろう、アイツも入隊希望なのだろうか。皆の好奇な視線を余所にペンギンは屯所の縁側に堂々と座って茶を飲んでいた。


さて、今から面接だ。廊下に並べられたパイプ椅子に座って順番を待つ。
あぁ、緊張する。強く握った拳は汗ばんでいる。しかし隣の長髪の男は静かに目を閉じ腕を組んでいる。江戸の治安を守る為にはこの男のような冷静さも持ち合わせておかなければならない、見習わなければ。
そして隣の隣にはあのペンギンがいた。

やはり入隊希望だったのか…!!

「次の方どうぞ」

一瞬心臓が大きくなった。とうとう俺の番がやってきたのだ。

面接は最初の挨拶が肝心。

「失礼します!!」

まず部屋に入る前に斜め45度の一礼。そして中に入り、パイプ椅子の横に立つ。

「名無権平です!!よろしくお願いします!!」

ここで再び斜め45度の礼。我ながら完璧だ。是非とも分度器を持って来て測っていただきたい。

「おぉー!礼儀正しい子だなぁ!!そんな緊張しなくて良いぞぉ!!」

よし、好印象だ!俺は心の中でガッツポーズをする。
長机の向こうにいる男性二人の内の一人、ガッシリとした体格で顎髭を少しだけ生やした…確か…この方は真選組の

「俺は局長の近藤勲だ!よろしくな!!」

そうだ。この方が真選組局長、近藤勲。
彼は二カリと歯を見せながら笑い、座れと手の平を上下する。何故かこの笑顔を見ただけで張り詰めていた気持ちが柔らんできた。

「失礼します」と椅子に座り、局長の隣に座る男に目を遣った。煙草を口に加え、一枚の紙を持ちこちらをギロリと睨む。
瞳孔が開き気味のこの目は

「副長の土方だ。では始めるぞ」

こ、この方が鬼の副長…!!

噂通り恐ろしいオーラを醸し出している。一度柔らんだ気持ちが一気に引き締まり膝の上の拳を強く握った。

「まず」

そう副長が口を開いたその時、


――ドカァァーン!!!


突然廊下で爆発音が鳴り、危うく口から心臓を出しそうになった。

「桂ァァァ!!!こんなとこで何してるんでィ!!」
「クッ…!!もう少しだったのだが…エリザベス!!ずらかるぞ!!…何?茶菓子をまだ食べていない…だと?…確かに徴募に応じた者は茶菓子がもらえるのだったな…。ではもう少し居よ」
「誰がおめぇにやるんでィ。なぁ?誰がどいつがやるんでィ」
「沖田。茶菓子が出たら帰る」
「平然と座り直すなァァァ!!!」


――ドカァァーン!!!


再度屯所が爆発音と共に揺れた。

「…」

これ、何か非常事態が発生しているんじゃ…と恐る恐る目の前に座る真選組トップ1、2を見る。

「…志望動機は何だ?」


――面接を続けた…?!


さすが特別武装警察真選組。これぐらいは日常茶飯事のようだ。

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