小説 2

4がつ1にち(はれ)4

たまたま通りがかった永倉に沖田が何か言っていたかと訊いてみた。するとやはり奴は永倉にも「赤ちゃんができた」と言っていたらしい。だが、端っから嘘だと思ったらしく相手にしなかったようだ。逆に彼から「俺、背丈高くなりました?」という質問をされた。
ほぼ毎日顔を合わせている為にそんな微妙な変化は分からない。高くなった…と言われれば高くなったような気がするし、変わっていない…と言われれば変わっていないような気もする。
見上げてくる小柄な青年の目は真剣そのもの。ここは4月1日に甘んじて「高くなった」と言っておくべきか――そう考えているとドドドド…と漫画のひとコマのような擬音語が聞こえてきた。縁側にあがる筈のない砂埃をあげて原田と藤堂が猛ダッシュでこちらに向かってくる姿が目に入る。そして「しつれいしましたァー!!」と叫び永倉を抱えて去って行った。

続いて斉藤が書類を持ってやってきたので彼にも訊いてみたが、答えは永倉と同じだった。しかし斉藤は祝いの言葉を返したらしい。理由を問うと「その方が当たり障りがないから」と言った。真に受け取ったのか嘘として受け取ったのか…不明なところだが、とりあえず書類は副長室に置いておくよう頼んだ。


「なぁ、トシ。どうしたんだ?」

様子がおかしい旧友に近藤が怪訝そうに眉を寄せた。
沖田を自分の子供のように接している彼には言っておかなくてはならないだろう。土方が口を開き掛けたその時――スパン!!と勢いよく背後の襖が開いた。

「とりあえず中に入りましょうよ」

ボロボロの山崎が肩で息をしながら土方達を見据えていた。


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