小説 2

4がつ1にち(はれ)3

とりあえず廃刀令違反の犯罪者は通りがかった山崎に押し付けた。叫び声と怒号が飛び交う部屋の襖を閉め、空を見上げる。


――そうか、とうとうあのクソガキも父親となるのか


…などという思いは微塵も沸いてこない。あれ?アイツ等ってそんな仲だったっけ?という疑問文が土方の頭の中を支配していた。
顔を合わせる度に喧嘩をしていた二人。とてもとても子作り行為まで発展するとは思えない。


仮にもあるとすれば、だ。


「ガキは子の作り方も知らねェだろ!」
「何ぃ?!それぐらい知ってるアル!神楽様はお前と違って大人の女アルヨ!」
「口から出た卵を温めたら孵るとかじゃねぇだろうな?」
「アホか!お前こそ竹斬ったら出てくるとか思ってんダロ!」
「そんな事したら中身ごと叩斬っちまいまさァ!」


そんなこんなで「じゃあ実践してみるか」「上等アル」という乗りでやってしまったに違いない。



「いやいやいや…」

自分で考えた有り得ない内容に自然と顔がひきつってきた。
剣法より性教育を教え込んだ方が良かったのか、教育方を間違っていたのか…物が壊れる音と悲鳴を背に土方は再び瞑目した。

「お、トシ。句でも練っているのか?」

けたたましい騒音の中、聞こえてきた明るい声。目を開けてその方を見遣れば、近藤が物珍しそうに見ていた。

「何か良い句でも浮かんだか?しかし何だ…騒がしいな」
「いや…聞いてくれ。近藤さん」
「おぉ!是非名句を聞かせてくれ!4月1日、春の句を!」


――!!


近藤の言葉を聞いた途端、土方の目が見開いた。

「そうだ!それだ!!」
「は、はいィ???」
「ったく!騙されてんだよあの馬鹿天パ!」

訳が分からずに目を丸くしている近藤を尻目に土方は苦々しく顔をしかめて騒がしい部屋の方を向いた。

「そうと分かればさっさと」
「あぁ、そういやぁ朝から総悟が赤ちゃんができたって皆に言い回っていたなぁ。俺もさぁ!とうとう総悟も父親になるのかぁって見事に騙されてしまってな!!いつの間にそんな良い相手がいたのかと」


――!!


近藤が愉快そうに笑う中、襖に手を掛けていた土方の動作が一時停止した。
近藤の言う通り朝方に沖田の口から「赤ちゃんができた」とは聞いた。だが‘誰が’とは言っていない。

土方は襖から手を離し、再び空を見上げた。


――ホーホケキョ


句材には打って付けのうぐいすの鳴き声が鬱陶しく感じた。


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