小説 2

新入隊士がゆく‐討ち入り前‐

初めて真剣で戦った日からもうどれぐらい経ったのだろうか。あれから何度も不逞浪士に遭遇し、白刃を振るってきた。
初めて人を斬った日は興奮して夜眠ることができなかった。


「先日、過激派攘夷浪士の組織が大量の武器を手に城へ攻め入るという情報を監察方が手に入れた。もうすでに武器は揃っており、後は決行の日を待つだけとなっている。問題はその日時が未だ分かっていない。もしかしたら明日…いや、今日、日が落ちてから江戸に火が上がるかもしれん」

全隊士による緊急会議の中、局長が厳かに言い放つ。皆の顔に緊張が走り、一様に前を見据えていた。

「一刻の猶予もない。数時間後に奴等の拠点、後藤屋へ踏み込む。トシがより詳しい指示をするから隊長達は前に集まってくれ。後の者は各自、抜かりがないよう準備をしろ」



――そして今日、初めての討ち入りへ行く。



「大丈夫かィ?土方のヤローがのんびりしてっから、急な討ち入りになっちまったけど」

沖田隊長は自分の佩刀を見ながら俺に言った。

ここは一番隊と二番隊が待機している大部屋。佩刀の手入れをしている者、じっと瞑想をしている者、談笑している者、討ち入り前でも皆やる事は様々だ。

「はい。今まで培ってきた真剣での戦い。今こそ存分に発揮できる機会だと思います」
「相変わらず真面目だねィ。まぁ、あまり力みなさんな」

そう言うと沖田隊長は佩刀を腰に帯びる。そこへ永倉隊長が紙をヒラヒラと揺らしながらやってきた

「沖田、打ち合わせー」
「え、やんの?」
「やらなきゃお前勝手に進むし」
「一々慎重だねィ……あ、ここの煙突からおめぇ入れよ。それでメリークリスマス!って叫べばパーティーが始まるかも」
「お前の頭の中は万年パーティーだな」


――白刃が入り乱れる戦場へ俺は踏み入る事になる。血潮が噴き出し、誰とも知れぬ体の一部が転がる、そのような地獄絵図の中、俺は最後まで刀を握っていられるだろうか。


「沖田ー、永倉ー、お前等んとこから一人ずつこっち…にてオイコラ。何、実戦練習してんだよ」

原田隊長が抜刀している二人を見て、呆れたように溜め息を吐いた。

「だってコイツがまた」
「またチビって言われたのか?あ、そういえばさ!この前の合コンの女達がよ、あの小さい隊長さん可愛いよねー!って大人気だっ………ちょ、永倉君?刀危ないよ」


――生き残ってみせる。
俺にはまだまだ江戸の為…いや、この真選組という素晴らしい組織の為に刀を振るいたいのだ。


「隊長ォォー!!」

神山さんが隊長服の上着をしっかりと抱き締め、無駄に大声を張り上げながらやってきた

「隊長の上着、暖めておきましたァー!!自分の体温で」
「あ、凹助ー。上着貸してくれィ」


――もし敵の刃に掛かり、命を落とすような事があったら、
…もう俺はそれだけの男だった、という事だ。真選組の為に死ねるというのなら喜んで死のう。


「凹助が前言ってた甘味屋、もう潰れてたぜィ」
「え?!マジで??あそこの店員のお姉ちゃん可愛かったのにー」



ところで、今から討ち入りに行くんだよな?



まるで会社の昼休みのような周りの隊長達に俺は今一度、局長の話を思い出していた。

[*前] | [次#]





戻る

- ナノ -