小説 2

新入隊士がゆく‐初巡回‐

いよいよ初めての巡回。先輩隊士の方が言うには、最近は比較的治安が安定しているので巷の攘夷浪士達は大人しくしているらしい。だが、油断は禁物だ。昨日、興奮と不安であまり寝付けなかった。
俺は新人隊士の中で一番に合格をもらい、めでたく市中巡回の任務を与えられた。朝から同僚達の激励の言葉を受けながら身支度をし、広庭で一番隊隊長、沖田隊長を待つ。

俺は柄頭に手をやり、おもむろに空を見上げた。

ようやく真選組の、一番隊隊員としての任務につけるのだ。幼い時から正義感が強かった俺は、芝居や本の中に登場する正義の味方に憧れていた。
『真選組』という組織がこの江戸に出来てからというものの、彼らのおかげで数え切れないテロ行為が防がれてきた。加えて普通の警察としての役割も果たしており、数ある事件も解決に導いている。日頃、チンピラ、殺人集団、税金泥棒など評判は悪いが、真選組無くしては江戸の平和は維持できないであろう。

――そのような素晴らしい警察組織に身を置く事ができ、俺は心から誇りに思う。

「あ、いたいた」

思いにふけっていると、明るい声で隊長服の青年が近寄ってきた。

「あれ?丘隊長?」

茶髪に猫のような目、七番隊の丘隊長だ。
確か、今日は沖田隊長と見廻る予定だった筈…俺は目を丸くして丘隊長を見る。

「沖田が朝からいないらしくてさー。代わりに俺が同行する事になったんだよ。よろしくな!」

自分の緊張を吹き飛ばすような軽い口調。丘隊長は俺の背中をポンポンと叩き「行こうぜー」と、門の方を指差した。
昨日、副長から沖田隊長と行くようにと言われたのだが…まぁ、24時間年中無休の警察機関だ。いつ何時事件があってもおかしくはない。沖田隊長は早朝から出動したのだろうか。

「沖田隊長は何か急遽仕事でも入ったのですか?」

俺は隣を歩く丘隊長に問う。

「あぁー…朝っぱらから何してんだろ?でもまぁ、アイツの単独行動はいつもの事だし」

そう言って可笑しそうに笑い、話を続けた。

「一番隊の奴等もいつの間にやら勝手に見廻っちゃってるしさ。俺、朝食ん時にちょうど副長と会っちゃって…んでお前の事を頼まれたわけ」


なんてフリーダムな。


組織ってなんだろう、俺は瞬きをしながら考える。

「真選組の見廻りってそんな感じなんですか?」
「まさか!普通は隊の中で二、三組に分かれて見廻るんだ。基本、平隊士は勤務中の単独行動は禁じられてんだよ。…え?もしかして知らないとか?」

丘隊長が目を丸くしながらこちらを見る。そんな決まり事があるとは初耳だ、俺は首を縦に振った。

「はぁ…沖田の奴、言ってないなー?ま、そういう事!明日から誰でも良いからくっついて行けばいいぜ」
「あ、はい。そうします」

奇人変人が多い、というのはここからも来ているのだろうか。俺はこれから先、一番隊でやっていけるかどうか少し不安になった。

市中を見廻り中、丘隊長から注意すべき事や様々なトラブルに対しての対処法、後はちょっとした小話などを聞いた。
そんな感じで見廻りは特に問題もなく、順調にいった。
途中、丘隊長が「休憩しようぜ」と昔ながらの茅葺き屋根の茶屋に入る。

「丘隊長は何で真選組に入ったんですか?」

店先の縁台に座り、茶をすすった。日除けの赤い大きな番傘が風に吹かれ少し揺れる。

「んー、格好いいから」
「へ?」
「こんな洋服着て、刀提げてさー。目立つじゃん?親からは道場の後を継げとかそんな事言われたけど、そんなのありきたりだし」
「そ、そうなんですか」
「そそ」

真顔だ。きっと彼は本気で言ってるのだろう。
志ってなんだろう、俺は団子を頬張りながら考える。

あっけらかんと警察らしかぬ事を答える丘隊長だが、彼は実技試験で斉藤隊長の板を割った最初の者だと聞いた。得意の棒術で挑んだらしいが、それは見事な棒捌きだったという。
見た目重視者でも実力が付いていったら良いのか、俺は団子を茶で流し込み、茶飲みを縁台に置いた。

「しかしお前真面目そうだなー。沖田の隊じゃなくて二木の隊の方が良かったんじゃないか?アイツの隊は真選組には珍しいぐらい普通の隊だぜ」

そう言い、丘隊長は笑いながら俺の肩を叩いた。

俺の次の目標は頭の中を柔軟にする事だな、と思った。

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