小説 2

新入隊士がゆく‐日常‐

だいぶ屯所の生活に慣れてきた。刀の扱いにも慣れ、据え物斬りもクリア、ようやく合格がもらえ、先日買った真新しい佩刀を腰に携え屯所内を歩く。
一人前の真選組隊士として認められた証の佩刀。鞘が足に当たる度に気分が高まり、心が踊る。

そして明日、初めて皆と同じく刀を帯び、隊服を着ての市中巡回。いつ不逞浪士に斬り掛かられてもおかしくない状況となる。
今まで隊服を着ての外出は禁じられてきた。まだ刀も扱えない半人前の者が真選組の象徴である黒い服を着て、市中を出歩けば不逞浪士達の餌食になるのは目に見えている。何よりも白刃に逃げまどう無様な真選組を江戸の庶民に見せるべきではない、というわけだ。


明日浪士達と遭遇したらどうしようか、なんて事を考えながら昼食を取る為、食堂へと歩く。
ある部屋の前を通り過ぎようとした時、人の声がして思わず足を止めた。

「え、あぁ、そうなんですか?それは良いですね」

この穏やかな声色は四番隊杉原隊長だ。
杉原隊長は電話の応対をしているらしく、黒電話の前で正座している。ここは会計など事務所的な部屋で数台の固定電話、パソコンなど置いてある。
他には無線機、逆探知機など庶民からの通報にも即座に対応できるよう様々な設備が整えられており、真選組は24時間休まず江戸の治安を見守っているのだ。

そんな部屋で杉原隊長は何をしているのだろう。仕事の電話だろうか。

「はい、じゃあ分割払いで」


何が。


買い物?俺は立ち止まったまま、はてなマークを散らしつつ杉原隊長を見る。

「!…あれ?」

怪訝に首を傾げていると、縁側の曲がり角で黒い服を着た二人組が部屋の中をチラチラ見つつ、含み笑いをしている姿が目に入った。

「なんであんな簡単に引っかかるんでィ…」
「健康の二文字に弱いって本当だな」

沖田隊長と原田隊長が小声で囁きあっていた。原田隊長は片手に携帯電話を持っている。

「まぁ、珍しく悪徳商法のやり方を聞いてきたかと思えば…こんな事に使う為だったのね」

このオカマ口調、五番隊の武田隊長だ。
傍まで行ってみるとしゃがみ込んでいる沖田隊長と原田隊長の後ろで、腰に手をやり、呆れたように溜め息を吐く武田隊長がいた。

「てっきり悪徳業者関連の事件でも追ってるのかと」
「模擬実験でィ」
「杉原相手じゃ実験にもならないわよ」

武田隊長は沖田隊長の言葉に肩を竦ませ、首を横に振る。
恐らく、杉原隊長の電話相手は原田隊長で、原田隊長は悪徳業者になりきって話しているのだろう。今までの内容から察するにドッキリは見事に成功しているようだ。

「…」


今日も江戸は平和だなー。


俺は何故かしみじみとした気分になり、無意味に頷きながら回れ右をする。

据え物斬りで使った豚料理でも食べよう、なんて事を考えながら昼食を取る為、食堂へと歩いて行った。

[*前] | [次#]





戻る

- ナノ -