05
「あれ、番助じゃねーか」
それなりに土方と喧嘩をした後、乱れた亜麻色の髪をした総悟が指を差す。細身のひょろっとした商人風の男が柄の悪そうな男四人に囲まれていた。行き交う人々は見て見ぬ振り、触らぬ神に祟りなし、といったところか。
「まぁたアイツ等か」
「知ってんのか?近藤さん」
総悟と同じく乱れた黒髪を整えながら土方は隣の男を見た。
「あぁ、藤堂に絡んでいた輩だ。最近ここらに来た道場の奴等だって聞いたが…何て名前だったかな」
「へぇ、つーことは多少は腕に自信があんのかね?」
…と、問うが近藤は忽然と姿を消していて、代わりに目に入ってきた総悟は無言で向こうの方を指差している。見ると男四人に向かって何か言っている近藤の姿があった。もしかして誰よりも近藤が喧嘩好きかもしれない、土方は大将の背を見てそう思った。
「うっせぇんだよ!!コイツ!!カンカンカンカン鳴らしやがって!!」
昔から居るものは番助の半刻ごとの拍子木鳴らしにはもう慣れっこだが、最近来たというこの者達からしてみれば耳障りなのだろう。
「気持ちは分かるが、だからと言って一人の男を数人が寄ってたかって詰め寄るのは如何なものか」
「あぁ?!俺らに説教垂れる気かぁ?!」
男達は標的を番助から近藤に変え、囲み出した。背丈は同じぐらい、四人共筋肉質で腰には木刀を携えている。一人の男が、「ん?」と眉間に皺を寄せ近藤の顔をのぞき込んだ。
「コイツ、この前も俺らの邪魔しなかったか?」
「!!あぁー!!そうだ!!」
「一度ならず二度まで楯突くかぁ?!」
「あったまにきた!!ボッコボコにしてやらぁ!!」
四人は口々に叫び、木刀を構え始めた。
「今頃気付いたのか。こんな人通りの多いところで木刀を振り回したくないのだが」
近藤は顔をしかめ辺りを見回す。いつの間にか野次馬に囲まれていた。
「ほざけ!!」
四人一斉に木刀を振り上げ地面を蹴った、その時――
「いって!!」
パン!という乾いた音がしたかと思うと一人の男が手を押さえ木刀を離す。続け様にパン!パン!パン!と鳴り男達は次々に木刀から手を離した。
「ってぇ!何だ?!」
男は顔を歪め手を振り、辺りを見る。木刀に手を掛けていた近藤も不思議そうに野次馬を見た。するとその中から黒髪を高めにまとめた目つきの悪い青年が近寄って来た。
「人には散々喧嘩は控えろっつーのに、ずるくねぇか?」
「トシ」
土方は楽しそうにニヤニヤと笑いながら木刀を片手に男達を見た。
「ひ、土方十四郎か!!」
「この辺りに居るっつー噂は本当だったか…!」
先程の威勢はどこへやら、男達はジリジリと草鞋を鳴らし後退りながら叫んだ。土方は木刀で肩を叩きながら顔をしかめる。
「あぁ?!まさか逃げるんじゃねーだろうなぁ?こっちは久しぶりの喧嘩なんだ、相手してもらうぜ!」
「トシ、止めろ」
後ろから近藤が止める。
「ちょ、近藤さん。マジでずるくね?」
「ここじゃあ関係ない人まで巻き込むだろ!果たし状を書くとか」
「今から?それ今から書くの?」
二人がそんなこんなしている内に男達は「出直しだ!」と言い逃げていった。
「あ!あーあ、逃げちまった」
土方は野次馬を押し退け走り去る男達を見て「チッ」と舌打ちをし、腰に木刀を差す。
「ハハハ!!良いじゃないか!何もなかって!…オイ、番助!!大丈夫か?」
先程までの騒ぎを傍で呆然と見つめていた番助だったが、近藤に声を掛けられ、ハッと弾かれたように目を大きく開き慌て出す。
「?どうした?」
番助は焦り何かを探しているようだったが、懐に手をやった途端パッと表情が明るくなる。
「?」
怪訝そうに見る近藤と土方を余所に番助は素早くその中から拍子木を取り出すと、カーン、カーンと鳴らした。
「四ツでござぁーい!!」
二人を含め、周りにいた全員がコントよろしくといった感じにコケた。
戻る