刻と時

03

「うめー。江戸にはこんな美味い団子があるのかィ」

総悟は口元にみたらしのタレを付けながら次々と団子を口の中に入れる。近藤も満足気に頷きながら串を置き、また新たな団子を手に取った。

「こんな美味いものを吐瀉物にする奴の気がしれねぇや」
「あぁ?!」

みたらし団子にマヨネーズをこんもりと盛っていた土方が総悟を睨む。もはや砂糖醤油の味は一切しないであろう。土方が串を持ち上げると団子からクリーム色の液体がボタボタと垂れ落ちた。

「あれ、右之は?」

斉藤は食べ物に向かっていつも一番に飛んでくるハゲ頭がいない事に気付き辺りを見回す。

「あっち」

総悟が指を差す方を見ると見知らぬ青年が原田と立ち合っている様が目に入る。「ん?」と首を傾げ総悟を見た。

「新しい人?」
「あぁ、凹助?」
「…ぼ?」

変わった名前だな、と斉藤は思った。

「一昨日、輩に絡まれていたから」
「また拾ったんだよな」

近藤の話を続けるように土方が串を置きながら言う。この近藤の困っている人がいたら放っておけない何でも受け入れてしまう性分には皆諦めがついている。

「…へぇ、綺麗な構えをする人だね。右之やりにくそう」

斉藤は原田と藤堂の稽古の様を興味深そうに見始めた。その二人の側にいた永倉が視線に気付き「あ」という顔をして駆け寄ってくる。

「終、来てたのか!…って何か食ってたの?」
「いや、吐瀉物があっただけでィ」

土方が亜麻色の頭を叩く。

「あの人、結構良い道場通ってたんじゃないかな」
「あ、終もそう思う?何て言うか型通りっていうか」
「トシもダメだろ、あぁいうタイプ」

斉藤と永倉の話を聞き、近藤が総悟と取っ組み合いになっている土方に聞いた。

「喧嘩じゃあぜってぇ負けねぇよ」
「トシは何でも喧嘩にするんだなぁ」

総悟がするりと土方の腕の中から抜け出し、大きな口を開け笑う近藤の隣に座る。

「アイツ刀持ってたんですよね!」
「あ」

近藤は慌てて「シーッ!」と、人差し指を立てた。総悟は大きな瞳をぱちくりと瞬きさせる。

「刀?」
「いやいや、何でもないぞ!」

近藤は怪訝そうな顔をする斉藤から顔を背けハハハと笑い、背伸びをした。外から拍子木の音と共にいつもの声が聞こえる。


――カーン、カーン

「八つ半でござぁーい!!」


「さて!後もうひと頑張りするか!総悟!!相手してやろう!!」
「え!本当ですかィ!」

肩を鳴らしながら道場内に戻っていく近藤の後ろを亜麻色の子供が追う。

「…番助って無許可だろ?捕まらないの?」

永倉の問いに見廻りの手伝いをしている斉藤が困ったように眉をひそめる。

「うーん…何回か注意してるんだけどねぇ。せめて回る回数を減らしてくれないかなぁ」

半刻ごとに拍子木の音と共に声を張り上げる行為は気にしない者も居ればうるさいと思う者もいる。
一番皆が迷惑を被った事は彼が原因不明の伝染病にかかった時だ。病にかかっているくせに律儀に町を回り病原菌をばらまいた。見事、総悟がかかり丑の刻に診療所に殴り込んだのは良い思い出。

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