刻と時

20




猛猿館との喧嘩から一夜明け――、

大八車に跳ね飛ばされ、原田に蹴り飛ばされたボスは勿論生きてはいたが、銃やら刀やら所持していた為に御用となったようだ。半壊していた長屋はいつも通り見知らぬ賊の仕業にし、近藤達は何食わぬ顔で今日も稽古に励む。本当にどちらが悪人なのか分からないね、斉藤が喧嘩騒動の度に言う台詞だ。
町では約一日ぶりとなる半刻ごとの柝声が鳴り響く。町の人々も心配していたようで番助は行く先々で声を掛けられていた。



――そして数日経ったある日の事、


「えぇーっ!!!マジでかよ?!」

斉藤の報告に誰よりも驚いたのは土方と原田。二人とも目を真ん丸くして斉藤の隣にいる青年を見た。

「うん。父が言ってくれたみたい」
「これで堂々と番太郎の仕事ができるわけか!夢だったんだろ?良かったなぁ!!」

近藤はガハハハ!と笑い番助の肩を叩く。番助は照れ臭そうに頭を掻いた。

前々から斉藤が番助に番太郎の仕事を与えてくれないか、と幕府に仕える自分の父親に掛け合っていたらしい。それが今日ようやく叶ったようだ。

「ただし、拍子木鳴らしは明け方と暮れ、後は夜中の一刻ごとっていう約束だけどね。後は軽い警備とか水門の開け閉めとか」
「良いじゃないか!いやぁ!めでたいなぁ!」

近藤は腕を組み満足そうにウンウンと頷いている。総悟も「良かったなぁ」と笑顔だ。
一方、土方と原田は複雑な表情で見ていた。

「お前達も早く仕事見つけなくてはならないなぁ」

後ろから投げかけられた年配者の言葉の矢印がグサッと頭に刺さったかのように二人は顔を歪めた。

「うん、まぁ、そうだな…なぁ?トシさん」
「お、俺はもっとこう…でかい仕事を探してるわけで…別に好きで無職なわけじゃあ」

「嘘付け!」「本当だ!」と言い合う無職二人に永倉がケタケタと笑った。

「タダ飯食らいは辛いね」
「親の仕送りに頼ってる奴に言われたかねぇ!」
「俺、ちゃんと門人達に指南してるし」

得意げに言う永倉を見て原田は「え、そうなの?」と聞くと井上がコクリと頷いた。

「凹助!お前は仲間だよな?」
「あ、俺、昨日仕事見つけてきた」

原田は藤堂の肩に手を置いたままガクリと頭を垂れる。

「ガハハハ!!焦らんで良い!!何ならお前達!百姓になるか?!」
「ぜっったい嫌だ!!」

近藤に強く反発したのは土方。

「俺はこんな田舎町には留まらねぇ!絶対一旗揚げてやるんだからな!」
「あぁ、それで失敗して身投げか。よくある話だねィ」


――カーン!


うまい具合にゴングのような拍子木の音が鳴り土方と総悟の喧嘩が始まった。


「一旗揚げる、かぁ…」

こんな気持ちの良い仲間達と一緒に仕事ができたらどんなに良いだろうか、

「俺もうかうかしていられないなぁ!」

近藤はそう言い、背伸びをしつつ空を見上げた。


夕焼け空に鳶が輪を描がき、ピーヒョロロロロ…と長閑な田舎町に鳴き声を響き渡せる。


――酉の初刻、七ツ半








fin...

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