刻と時

18

「トシ、大丈夫か?」
「あぁ、掠り傷だ」

息を整えながら問う近藤に対して、土方は前方を見据えたまま悔しそうに顔をしかめる。総悟も本物の銃の登場には驚いたようで少し怯えた表情で近藤を見上げた。それに気付き近藤は「ん?」と見つめ返す。

「あぁ…心配いらないぞ。大丈夫だ。あ、さっきのヤツは癇癪玉か?さすが総悟だなぁ。助かったぞ」

亜麻色の頭をワシャワシャと少し乱暴に撫でてニカッとこの男独特の笑顔を見せる。

「ったく…斉藤の奴…町に入る奴等の持ち物検査ぐらいしておけよ」

そうボヤく土方の目線の先には自分達を探す抜き身を持った男の姿があった。

「刀ヤローはどうにかなるとして…問題はあの銃ヤローだ。猿のクセに飛び道具かよ」

土方も何度か真剣は持ったことがあるし、振ったこともある。もちろん相手は人ではなく巻き藁だが。その経験から土方は刀を持つ男の動きが鈍かったように見えた。

「原田達は大丈夫か?不用意に飛び込んで撃たれなければ良いが」
「銃声は聞こえただろうから…まさか突っ込んだりは」

そう土方が言い掛けたその時、向こうの方から人の喚き声が聞こえてきた。木が割れる音と車輪が回る音もする。微かに地響きを感じた。

「…ん?」

まさかな、と思いながらも土方は壊れた襖から顔を出し騒音の発生源を見る。

「ボス猿はどこだァ!!」
「右之!待て!!さっき何か銃声が聞こえたんだけど?!」

ハゲ頭とバンダナ頭が大八車を押して走り、荷台には小柄の青年が柵にしがみつきながら喚いている。そのまま土方の目の前を通り過ぎて行った。途中悲鳴と共にドン!と何かにぶつかった音がした。

「…」

大八車は奥で見事なドリフトをかまし、先程土方達が入っていこうとした部屋へ突っ込んで行った。

「…止めなくて良かったのか?」
「止める隙があったと思うか?」

唖然としている近藤に対して同じく唖然とした土方が聞き返した。

「と、十四郎…!どうした?その腕…!」

暴走車を走って追いかけていたのだろう、井上が息を切らしつつ部屋を出た土方を見る。

「あ、話は後だ。奥の部屋に行こう!」

大八車が突っ込んで行った後、物を破壊する激しい音は聞こえたが、銃声は聞こえなかった。大丈夫だとは思うが、土方達は急いで奥の部屋へと走った。






奥の部屋では大八車が木の壁にめり込んでいる。傍で藤堂が車輪にもたれて苦しそうに肩で息をし、原田がキョロキョロと辺りを見回している。荷台から飛び降りた永倉が近藤達に気付き「あ!」と声を上げた。

「もうやっちゃったんですか?さっき銃声のような音が聞こえたんですが…」

眉間にしわを寄せつつ頭を掻く。原田も腕を組み顔をしかめた。

「格好良く登場しようと思ったんだが…」
「勢い良すぎだ!ハゲ!!俺まで壁にめり込むところだったんだぞ!!」
「つ、疲れた…」

原田に向かって喚く永倉の横で藤堂が車輪に手を置き深く息を吐く。

「…で、終わったのか?」

原田が首を傾げ、土方に聞いた。

「そうだな。終わったと思うぞ」

土方はそう言い、大八車を指さした。その先を原田が見る。

「え」
「うぉ?!」

永倉は自分の足元に銃が転がっていることに気付き、吃驚してその場を離れた。その銃の先には手があり、腕があり…大八車の下に男が倒れている。原田が目を丸くして土方と倒れている男を交互に見る。

「…まさか」
「恐らくな」

銃も刀も大八車も使い手次第だな、土方はそう思い溜め息を吐いた。

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