刻と時

17

土方は木刀で肩を叩きながら一番奥の部屋の襖を見据えていた。

「後はここだけだな」
「さすがにもう逃げてんじゃね?」
「結局全員やってしまったしな…」

総悟と近藤も目の前の部屋を見る。最初は最優先でボスを叩くという作戦だった筈だが、気が付くと周りは誰もいなくなっていた。

「こんなにもカスばっかとは思わなかったんだよ」

二人の言葉に土方は苦々しく顔を歪める。毛色が違う奴といえば先程総悟がやった棚の後ろで隠れていた奴だけだ。斉藤の話で古参は手練れだと聞いた。まさかアイツただ一人だけだったというのか。

「…やけに静かだな。本当に逃げたのか?」

ここまでの敵は部屋という部屋から襖を蹴破り飛び出してきたというのにこの部屋からは蹴破られるどころか物音すらない。

「開けてみたら分かりまさァ」
「ちょ、待て総悟」

土方の制止を聞かず総悟は襖を開けた。薄暗い中で何かがキラリと光る。

「伏せろっ!!」
「わっ?!」

総悟の上に土方が覆い被さる。それと同時にパン!パン!という乾いた音が鳴った。総悟が持っていたエアガンから発する音とは違う、もっと頭に響くような、

「銃!?」

近藤が目を見開き、後ろを見る。壁に二つの銃弾がめり込んでいた。亜麻色の頭を抱えたまま土方が舌打ちをし、部屋の中を睨み据える。奥で一人の男が銃を手にニヤリと笑っている姿が目に入った――瞬間、土方達の両脇から男二人が抜き身を振り上げ襲ってきた。

「物騒なもん持ちすぎだろ!!」

土方はそう叫び総悟を抱えたまま後方へ飛んだ。刀が風を斬る音と布を裂く音が同時に鳴る。二人一緒に床へ滑るように倒れ込み、土方の肩が壁にぶつかって止まった。

「トシ!!」

近藤が叫び二人の前に躍り出る。再び振り下ろしてきた刀身の横腹の部分、鎬を木刀で思い切り叩いた。刀という物は縦には強いが横からの力には脆い為、余程の業物でない限り軽く折れてしまう。
案の定、男が持っている刀はポキリと折れ、一尺ほど残った刀身を持ったまま後ずさった。

パン!パン!と再び奥の男が発砲し、近藤は「うぉ!?」と声を上げて反射的に身を低くした。

「一旦下がるぞ!」

近藤の後ろでしゃがんでいた土方が右腕から流れる血を押さえつつ焦燥した叫び声を上げた。折れた刀を放り投げた男は新たな刀を持ち、近藤に答える暇も与えずその胴を狙う。それが避けられるとそのままの勢いで右下から逆袈裟を掛けてきたが、近藤は地を蹴り横へ転がりながら避ける。

「近藤さん!」

土方の隣にいた総悟が叫び、懐からビー玉ぐらいの大きさの丸い玉を数個取り出すと刀を持った男に投げつけた。
パ、パ、パ、パン!と弾けるような爆発音が男の足元で鳴り、近藤に追い打ちをかける為に踏みだそうとした足が止まる。その隙に三人は駆け出し別の部屋へと逃げ込んだ。

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