刻と時

15

悲鳴や怒号が飛び交う中、また別の部屋から数人の男達が木刀や鉄の棒を携え出てきた。

「ほんと、数だけはいるな」

木刀を肩に担ぎながら長屋を駆け抜けていた土方が目の前に現れた敵の固まりを見て面倒くさそうに息を吐いた。
一人の男が雄叫びを上げ勢いよく打ち込んできた。土方は木刀を担いだまま右前方に踏み込み、標的が消え前のめりになった敵の首の後ろ、延髄を打つ。

「土方ァ、危ないぜィ」
「ん?」

気絶する男を蹴り上げた瞬間、パン!パン!と音が鳴ったかと思えば頭上から無数のガラスの破片が降ってきた。

「うぉ?!」

天井から吊してあったガラスの玉が割れ、大小の破片が雨のように降る。下にいた男達は悲鳴を上げ蜘蛛の子を散らすかのように散り散りとなった。

「総悟!危ねぇだろ!!」
「だから危ないって」
「遅いわァァ!!!」

あっけらかんとエアガン片手に見上げてくる総悟に土方は青筋を浮かべ怒鳴った。
周りは猛猿館の男共が地に這いつくばって呻いている。少し後ろでは近藤が逃げる敵の背を見ていた。戦意喪失した敵に追い打ちは掛けない男だ。ただ逃げる先にも井上達がいるので無事逃げきれるかどうかは知らないが。

いい加減大将にお目に掛かりたいものだ、と土方は思っていると突如男が棚の後ろから現れ、鉄の棒を亜麻色の頭上で振り上げた。

「総悟!」
「!」

土方が叫ぶと総悟は咄嗟に手元のエアガンを盾に鉄の棒を防いだ――が、所詮玩具、鉄が当たるとエアガンは砕ける。それと同時に、総悟の真横から凄まじい勢いで木刀が通り過ぎた。電光のような突きを食らった男の体が宙を飛ぶ。

「総悟!大丈夫か?!」
「…」

総悟はエアガンの残骸を見つめる。中に詰められてあった小さな玉たちが手元から零れ落ちた。

「…よくも近藤さんが買ってくれたエアガンを…!!」

ギリッと歯を食いしばり前を睨み据えると腰に帯びていた木刀を手に取り、再び立ち上がってきた男に向かって駆けだした。

「…何?」

土方はエアガン如きで怒る総悟より、あの突きを受けて立ち上がった男に驚いた。

「オイ!そいつァできるぞ!!俺に任せろ!!」

土方の叫び声が聞こえているのか聞こえていないのか、総悟は構わず裂帛の気合いを発しながら男に向かって木刀を振り下ろした。男は鉄の棒でそれを摺り上げ、車にまわし胴を狙う。しかしそれは空を薙ぎ払うだけとなる。亜麻色の子供はすでに男の右へ周り込んでいた。膝を曲げ重点を腰に置き肘を引く。子供とは思えない鋭い眼光を見せたかと思うと小手、胴、面に目にも止まらない程素早い突きを食らわした。

「ほぉ…」

助太刀しようかと一歩踏み出したままその様を見ていた土方が目を見張る。総悟が得意とする三段突きは見ている者からするとひとつの突きに見える程だ。土方は総悟より早い突きは見た事がない。
その三段突きを受け溜まらず倒れた男の上で総悟は馬乗りになり胸倉を掴む。

「あれを改造して実弾詰めて土方の頭ぶち抜いてやろうって思ってたのに!!」

発する言葉はただのガキだが、土方は青筋を浮かべ顔をひきつらせた。気絶した男の頭が総悟に揺さぶられ上下に激しく動く。

「総悟ォ!!大丈夫かァ?!」

周りの猿共を片付けた近藤が叫びながら駆け寄ってくる。

「近藤さんから買ってもらったエアガン壊しちまった…。俺…あれで土方殺ろうと思ってたのに…」
「気にすることないぞォ!あんなのいくらでも買ってやるから!!」
「近藤さん、コイツの最後の台詞気にしてもらえる?」

親バカを目の前にして土方は軽い眩暈を感じた。

[*前] | [次#]


戻る

- ナノ -