刻と時

14

戸を突き破るけたたましい音と爆竹の爆発音が同時に鳴り響く。
総悟が悪戯に使う時より明らかに威力が違う爆竹に土方は隣で口笛を吹く子供を見た。

「…いつもより激しくね?」
「火薬2.5倍増しでさァ」

喧嘩用に作ったんだろうが、あまりにも用意周到な様にコイツはだいぶ前からやる気満々だったんだな、と土方は思った。その横をたすき掛けの男が颯爽と通り過ぎる。

「全軍突撃ィィー!!」
「あ!ズルいぜ!近藤さん!おい総悟!側を離れるなよ!!」

慌てて土方がその後を追う。総悟も後に続き原田達も追った。

一方、猛猿館の連中が居る長屋では大騒ぎだ。皆一様になんだなんだと騒いでいる。まだ白い煙が辺りを覆う中、近藤は大八車の荷台に飛び乗り大きく息を吸った。

「近藤勲!!ここにあり!!!」

喧嘩の場での近藤の第一声はいつもこれだ。大音声をあげ、自分の流派の基本構え‘平青眼’をとる。左の肩を引き右足を前にして半身になり木刀を右に開く。刃が横に向いている為、突きが外れてもそのまま横に滑らせば敵を薙ぎ払えるという構えなのだが、もちろんそれは刀の場合。

「近藤さん…その名乗ること、もう恥ずかしいから止めろって…」

大体喧嘩で一々自分の名を叫ぶバカがどこにいる、あ、いた、と自分で突っ込みを入れながら土方は頭を抱え溜め息を吐いた。

「武士足る者、まず名を名乗って相手に自分の価値を思い知らせ」
「百姓じゃなかったのか?」

そんなやり取りをしている間に男達は攻めて来たぞ、と喚き散らし次々と武器を持ち出してきた。
土方も大八車に乗り辺りを見回す。この騒ぎをボスに知らせる手下猿がいる筈だ、そいつの後を付ければ良い。

(いた!)

一人慌ててこちらとは反対方向に走り去る男を見つけた。

「おい、下っ端は任せたぜ」

荷台から飛び降りついでに近くにいた男の顔面に蹴りを食らわし、木刀を肩に担ぎながら走り出す。

「自分ばっか良いとこ取ろうとするんだもんなー」

原田はチェッと舌を鳴らし向かって来た敵の胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。襖を突き破り、木と皿が割れる激しい音がした。

「こら!ついて来るな!!」

土方は後ろをついてきた亜麻色に向かって叫ぶ。横の襖が蹴破られ、男が木刀を振りかざし飛び出してきた。それが振り下ろされる前に脇を打ち横へ吹っ飛ばす。

「あ!」

再び前を向いた土方が声を上げた。ボスに報告をしに行ったと思われる男を見失ってしまった。

「このバカ!見失っちまっ」

青筋を浮かべ後ろを振り返ると総悟が見事な三段突きを相手の男に食らわすところだった。木刀を下ろし土方を見上げる。

「側を離れるなと言ったのはアンタでさァ」
「あ」

片眉を上げ、ムッとした表情で言う総悟に土方は「そういえば」と頭を掻いた。
近藤が勇ましい雄叫びを上げながら敵の固まりに突進してきた。腕にしがみついてきた敵を振り払いその背中を木刀でしたたかに打つ。

「トシが言った通りここらの奴等は数こそいるが大したことはない。奥へ行くか」

近藤の少し後ろでは井上が奮闘し、永倉が小さな体を生かし敵の懐に飛び込んでは胴を打ち、くるりと身を開いては相手の死角に入りその脇腹に突きを食らわしていた。藤堂もやはり筋が良いのか初陣とは思えない動きで相手を蹴散らす。原田は表口にある大八車を次は別の部屋に向かって敵を跳ね飛ばしながら突っ込ませていた。

「やっぱ蹴散らしながら奥行くか。総悟!ついて来い!!」
「言われなくとも行きまさァ!」
「後ろは任せろ」

土方の後を総悟が夢が叶ったかのように目を爛々とさせついて行く。そのすぐ後ろを近藤が木刀を振り回しながら追った。

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